研究者の声

2019/12/19

疾患患者由来iPS細胞を用いた神経疾患の病態解析と治療 研究者の声【15】

  • 用途別細胞培養

今回ご紹介させていただく慶應義塾大学医学部の生理学研究室では、患者の血液細胞由来iPS細胞を活用することでsporadic ALS (SALS:孤発性ALS)、Multiple-system atrophy (MSA:多系統萎縮症)、Bipolar Disorder(双極性障害)およびSchizophrenia(統合失調症)といった異なる神経疾患の表現型解析や治療候補の開発に成功しています。
今まで困難とされてきた神経疾患の治療につながる研究論文を短期間に続けて発表されており、その研究スピードが大きく注目されています。

【研究者紹介】

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慶應義塾大学医学部生理学
特任助教
石川 充 様

経歴
新潟県出身
2011年 富山大学大学院博士後期課程修了(博士(薬学))
2013年 慶應義塾大学医学部生理学教室(岡野 栄之研究室)にて特任助教としてiPS細胞を用いた神経疾患の研究を開始
以降、国内外の様々な研究グループと共同研究を進めiPS細胞からの種々の神経系の分化誘導技術開発、および疾患モデリングや創薬スクリーニング研究を行っている。

HP(慶應義塾大学医学部 生理学教室・岡野栄之研究室):

【研究内容のご紹介】

様々な神経疾患に対する表現型の解析や治療方法の開発を行うために、患者の血液細胞由来のiPS細胞を樹立しています。樹立した患者由来のiPS細胞は神経細胞に分化させ、表現型の解析や治療法、候補薬の開発に利用しています。
2018年から2019年にかけて報告した論文では全く異なる神経疾患に対して、表現型や治療候補薬の発見に成功しました。
Nat Medicine 2018 の成果に基づき、2018年より医師主導治験が慶應義塾大学病院で始まっています。

プレスリリース:

各論文に共通する研究の主な流れは以下の通りです。
【患者由来血液細胞の採取】→【iPS細胞の樹立】→【神経分化】→【表現型発見あるいは治療候補薬発見】

研究要旨の概略図

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Ishii T et al., 2019 eNeuroより抜粋

3報の論文で報告された異なる疾患に対する研究結果

疾患名 誘導細胞種 表現型

治療法

候補薬

Fujimori K et al., 2018 Nat Med 孤発性ALS (SALS) 運動神経細胞 (1) 神経突起退縮
(2) アポトーシス
(3) 異常タンパク質凝集
(4) 細胞障害性
ロピニロール塩酸塩
Nakamoto FK et al., 2018 Sci Rep 多系統萎縮症 (MSA) 神経系細胞全般 および 興奮性神経細胞 COQ2変異を有したMSA由来ニューロンはコエンザイムQ10レベルが減少し、コエンザイムQ10の減少に由来する細胞機能障害を示した coenzyme Q10
Ishii T et al., 2019 eNeuro 双極性障害および統合失調症 グルタミン酸作動性神経細胞 および GABA作動性神経細胞 MAP2 (microtubule-associatedprotein 2)-陽性、樹状突起の短縮とシナプス数の減少

【研究のポイント】

血球細胞からのiPS細胞樹立の効率化
従来のiPS細胞樹立では由来細胞として皮膚細胞を用いてiPS細胞樹立が行われてきました。
しかしながら皮膚細胞の採取は、ドナーの皮膚切開と縫合を必要とするため侵襲性が高く、重い病気の患者様や、小児の患者様には難しい側面がありました。
解決策として血液細胞からのiPS細胞樹立がありますが、こちらは作出効率が不安定であるなど未知な部分も多く、優れた技術を有する研究室でないと樹立ができないといった課題がありました。
また、高齢の患者様から採取した細胞は生存性や増殖性が低い傾向があり、iPS細胞樹立の効率は極めて低くなる事が頻繁でした。

本研究グループでは、血液細胞から効率的にiPS細胞を樹立するため

を使用しました。Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28 を用いることでリプログラミングをさせやすいT細胞を、「高い品質と収量」を担保して確保できるようになり、これまで難しいとされてきた種類の疾患患者由来iPS細胞樹立が容易に行えるようになりました。

【Dynabeadsをお使いいただいた石川先生のコメント】

Dynabeads Human T-activator CD3/CD28を用いることでiPS細胞が非常に効率よく作れるようになりストレスを感じたり、つまずいたりすることなく、多検体や全く異なる疾患のiPS細胞の同時樹立などが可能になりました。
そして、どんどんその先、すなわち病気の解析や創薬研究に進むことができました。

今では我々にとって、Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28 を用いることは、iPS細胞樹立の際のゴールデンスタンダードのような存在になりつつあります。
また、私の知る限り非常に幅広い研究室で利用されているのも納得ができます。

Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28を用いている利点は、iPS細胞樹立を効率よくすることによって、そのあとの病気の解析などに十分な時間をさくことができるという点だと思います。

【石川先生の今後の展望】

  • 発生学や分子生物学を駆使してこれまでできなかった組織や病態をシャーレの中でモデル化すること
  • 脳神経系の希少疾患・難病の病態解析を通してヒト脳機能のメカニズムに迫り、将来的には、多くの人に対しても脳の健康をもたらすような成果に結び付けたい。

【参考文献】

  1. Fujimori K et al., Modeling sporadic ALS in iPSC-derived motor neurons identifies a potential therapeutic agent. 2018 Nat Med
  2. Nakamoto FK et al., The pathogenesis linked to coenzyme Q10 insufficiency in iPSC-derived neurons from patients with multiple-system atrophy. 2018 Sci Rep
  3. Ishii T et al., In Vitro Modeling of the Bipolar Disorder and Schizophrenia Using Patient-Derived Induced Pluripotent Stem Cells with Copy Number Variations of PCDH15 and RELN. 2019 eNeuro

【ご利用いただいた製品】

疾患名 製品名 梱包単位
DB11131 Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28 2 mL
DB11132 Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28 5 x 2 mL
DB11161 Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28 0.4 mL

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