ラーニングコーナー

2020/05/19

オルガノイド応用の進歩 - Nature Research Round Table -【E-Learning】

  • 用途別細胞培養

オルガノイド研究のエキスパートたちが標準化について議論

- オルガノイドは、精密診断と医薬品開発に革命をもたらすだろう。
2019年6月、ロンドンでNature ResearchとSTEMCELL Technologies社が共催した会議「Advances in Organoid Applications」では、この予測が繰り返しテーマにされました。専門分野のリーダーと研究者たちの間での合意形成が主な推進力になったこの会議では、プロトコールの標準化、患者の治療への橋渡し、命名法、そして特定のオルガノイド培養で解決可能あるいは不可能な問題の理解、などについて議論が交わされました。

本稿では、会議で議論されたテーマをご紹介し、最先端のオルガノイド研究者によるプレゼンテーションをオンデマンドウェビナー形式で提供しております。
(ウェビナーの視聴には、STEMCELL Technologies社ホームページへのログインが必要です。)

新しい研究アプローチ

James Goldenring博士は何年もの間、形質転換細胞株に依存して研究を行っていました。現在、彼はin vivoモデルとともにオルガノイドを広く使用しています。彼は小児下痢に関する研究発表の後に、「リアルな細胞での研究は実に刺激的です」と述べました。彼をはじめ多くの研究者にとって、オルガノイドは追加の研究アプローチをもたらします。その結果、彼が研究する膜貫通積荷輸送などの重要なタスクを細胞がどのように実行するかについて、私たちはいま基本的な問いへの回答に近づいています。このアプローチは最終的に、小児下痢のような生命を脅かす状況への予防策開発につながる可能性があります。

Kim Jensen博士は、「2009年にHans Cleversの素晴らしい論文を初めて見たとき、この方法の堅牢さを確かめるために腸上皮を扱わなければならないと思いました」とインタビューで述べました。彼とMadeline Lancaster博士、Prisca Liberali博士は、この日の最初のテーマに沿った講演の中で、生理学的な発達を研究するためのオルガノイドモデル開発について発表しました。Liberali博士は講演後のインタビューで、「現状、単一の細胞から数日で完全に形成されたオルガノイドにどう成長するかを確認できる完璧なシステムだと思います。」 と述べました。このことは、オルガノイドを構成する細胞のプログラミングを保持する能力と相まって、オルガノイドを生物医学研究の真に革新的な技術にしています。

インタビュー:オルガノイドに魅了された理由は?

What Makes You Excited About Organoids?

 

オルガノイド培養でモデル化されるものとは

オルガノイドは生体内の対象物の形態と細胞挙動の大部分を再現できることが示されています。このin vivo-likeな細胞プログラミングは、科学者が完全に理解していない複雑な生物学的システムをin vitroで再現しようとする際に生じる人為的な影響を低減します。したがって、パネリストたちは全員、この培養系でモデル化されるものを知ることがますます重要になるという意見で一致しました。

オルガノイドが普及するにつれて、研究者はオルガノイドを生体内の状態に近づけることを期待して、共培養や物理的パターン化などを介してさらに複雑性を増すことを試みています。しかし、単純なシステムとより複雑なシステムの使用の間でどうバランスを取ればよいのでしょう?パネルディスカッションの中で、Mathew Garnett博士は複雑なシステムの過度な宣伝に懸念を表明し、研究の問いに適切に取り組むために最低限の複雑さを使用するよう求めました。彼は続けて、「2つのものを混ぜ合わせることで、より代表的な複雑なシステムを構築できるという考えは甘いです。それは賢く行われる必要があります」と述べました。

科学者が生物学的相互作用を制御しようとする場合、モデルの関連性が不完全な実験デザインが与える影響は未知で大きな問題です。Juergen Knoblich博士は、オルガノイドでヒトの脳を研究した経験を共有しました。脳オルガノイドを扱うことで、今や彼のような神経科学者は2D細胞培養や齧歯類神経モデルの関連性をはるかに超えるモデルを手に入れました。これはオルガノイドに自発的に現れる細胞の層状化が、他のモデルよりもはるかに厳密に発達中のヒトの脳を模倣するためです。つまり、複雑さが増すことで真の意味が付加されているのです。しかしGarnett博士の意見では、この複雑さは科学者のデザインではなく細胞プログラミングに起因しています。

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おそらく最も意見が分かれた議論は、オルガノイドのin vitro実験から実際にどのような結論が導けるか、を中心としたものでした。

オルガノイドが単一細胞に解離され、新しいオルガノイドアッセイのために播種される場合、組織再生を本当にモデル化しているのでしょうか?Jensen博士は、生体内では細胞増殖は細胞死とバランスが取れているので、ホメオスタシスを維持していると指摘しました。しかし、この状態がオルガノイドのように急速に増殖する培養でも正確に表現できるかどうかは疑問視されました。Hans Clevers博士は、オルガノイド培養中の細胞が過剰増殖状態かもしれない中で消耗することなくin vitroで何年も維持できることについて、どれほど驚くべきことであるかを指摘しました。しかし彼は、オルガノイド培養のみから結論を導くのではなく、in vitro実験と仮説をin vivoでも検証しなくてはならないと強調しました。今日までの、オルガノイドでの多くの予想外の発見は、in vivoの新しい生物学的発見への道を示しており、オルガノイドの実験的有用性を明確に表しています。

 

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オルガノイドの定義とは

オルガノイド技術の普及が進むにつれて標準化の必要性が生じています。
何がオルガノイドで、何がそうでないかの定義から始めるのがよいでしょう。

明確に定義された命名法を支持することで知られるKnoblich博士は、「私の見解では、オルガノイドは標的組織の構造を表現し、シミュレーションしたい組織の細胞タイプといくつかの生理学的側面を含み、何らかの自己組織化をすることが必要です」と言います。これは意味論だけではありません ―この分野の先駆者たちは、「オルガノイド」という言葉がその人気を利用するために広く使われるのを見てきました。そして今、この言葉が助成金申請の「必須」用語になりつつあるので、その誤用が混乱を引き起こすおそれがあります。論文の要約に「オルガノイド」を使用したと記載されていても、材料と方法の項では一般に受け入れられているKnoblich博士の定義から大きく外れた培養系が記載されている場合があります。要約と背景で「オルガノイド」の定義をより厳格にすることで科学的により明快になるという点について、意見が一致しました。

インタビュー:オルガノイドの定義とは?

Juergen Knoblich Defines an Organoid

 

標準化に向けて

パネルディスカッションの間、標準化は全員の頭の中にありました ―ただし、必要な標準化レベルについての意見の一致はありませんでした。Lancaster博士は「標準化が重要な場合もありますが、培養条件を自由に試せないことで得られるものを制約してしまう可能性もあります」と指摘しました。実際、彼女とKnoblich博士による脳オルガノイドの発見は予想外であり、もっと制限の多い環境では生まれなかったかもしれません。

ラボ内およびラボ間での実験の再現性が課題であるという点に、意見の相違はほとんどありませんでした。プロトコールのバラつきと、実験材料のバッチ間の一貫性はどちらも、研究者が実験結果を比較するのを制限する要因だと認識していました。Clevers博士はこの分野が複雑なプロトコールに強く依存していることを指摘し、Garnett博士は懸念を表現して「学生に、彼らの“がん由来オルガノイド”培養に4分の1濃度のEGFを添加させるだけで、数か月後、彼らは隣にいるポスドクとまったく異なる培養物を扱っています」と述べました。Clevers博士は、コミュニティ内に比較用データベースを持つ仕組みを作ることができるかどうか問いました。この目的のために、Nature Researchは最近Protocols Exchange(プロトコールのオープンリポジトリ)を更新し、出版物に含まれるプロトコールについて研究者が対話、チャット、コメントするためのプラットフォームを提供しています。これにより、従来の材料と方法のセクションと比較して透明性と明確さが増すことが期待されます。パネリストたちは、標準化の改善がオルガノイド技術を臨床に近づけるために重要な動きであることに同意しました。

インタビュー:オルガノイドに残された課題とは?

What Challenges Remain for Organoids?

 

臨床への適合をどうするか

最初の論文から10年も経たないうちに、オルガノイドはすでに人命を救いました。
オランダでは嚢胞性線維症(cystic fibrosis, CF)患者のFabianから直腸オルガノイドが作製されました。彼のCFは非常にまれな突然変異によって引き起こされるため、治療薬ivacaftor(Kalydeco)への応答を示すデータがありませんでした。保険会社が高価な治療薬をカバーするにはエビデンスが必要になるため、Fabianには治療の選択肢がありませんでした。

そこでオルガノイドが登場しました。研究者はFabianの直腸オルガノイドが実際にivacaftorに応答したことを示しました。その結果、保険会社がFabianの治療をカバーし、今日もFabianは健在です。このアプローチはClevers博士とHUB(Hubrecht Organoid Technology)によって試験され、現在ヨーロッパの他の場所でも実施されています。パネルディスカッション中、参加者たちはClevers博士のアプローチと規制当局の承認プロセスの大変さについて熱心に耳を傾けていました。Clevers博士は、患者に他の治療選択肢がないため、承認の障壁ははるかに低いことを強調しました。

希少疾患治療の分野では、オルガノイドは直ちに実質的な影響を与えることができます。確立した標準治療が存在する悪性腫瘍などの疾患の場合、オルガノイドが患者の治療選択肢になるまでにしばらく時間がかかります。Clevers博士は「観察試験が進行中です。しかし、変化を促す統計的証拠が十分に強化されるまでには何年もかかるでしょう」とコメントしました。しかし、がん細胞株は樹立が非常に難しく、多くのがんには存在しないことから、オルガノイドはがん研究のまったく新しい方法となっています。

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オルガノイドを用いた精密がん治療について発表したGarnett博士は、「私はがんの分野にいますが、”オルガノイド”はちょうど主流になり始めているところで、おそらく今後数年間で大幅に普及すると思います」と述べています。彼は十分に文書化されたオルガノイド株の確立とバンキングを行い、世界中の研究者が利用できるようにするための共同事業に参画しています。彼のグループは、オルガノイド培養が採取元の腫瘍をどれほどよく表しているか、それが時間とともにどのように変化するか、について最前線で調査しています。「私たちは、誘導のポイントが最大の選択圧がかかる所にあることを知っています」とGarnett博士は述べました。Calvin Kuo博士は、薬剤応答スクリーニングに十分なオルガノイドをスケールアップするには、ほとんどの人が約4〜6週間を想定しているものの、患者に意味ある影響をもたらすにはより短縮する必要があると述べました。Garnett博士は、単純な読み出しと個々の治療法ではなく薬剤の部類ごとに患者を層別化するアプローチを使用することで、がん患者に対するオルガノイドの診断価値が高まる可能性があることを強調しました。

オルガノイドは、今後どのように臨床分野に適合していくのでしょう?参加者の1人で小児科医のDasja Pajkrt博士は、患者の生命に影響を与える可能性のあるアイデアを推進するよう研究者たちに懇願しました。武部 貴則(Takanori Takebe)博士は、医薬品開発プロセスの適切な段階でオルガノイドの採用を推進するための具体的取り組みの必要性を強く主張しました。彼は医薬品開発プロセスにおけるオルガノイドの価値を強調した一方で、スループットについては他のより確立したシステムの効率にかなわない領域であることも認めました。彼が「有効性のために、オルガノイドは三次的または二次的に役立つかもしれません」と推測した一方で、オルガノイド培養はいくつかの製薬プログラムのリード化合物最適化のためにより一次的に依存されるようになるかもしれません。

Emulate Bio社の社長兼CSOであるGeraldine Hamilton博士は、毒性研究では、医薬品開発プロセスで高額なコストのかかる段階であるヒト毒性について、オルガノイドならin vitroで結果を出せる可能性があると指摘しました。パネリストたちは、FDA、EDA、および大手製薬会社がオルガノイド技術に大きな関心を示してきたものの、何十年にもわたり行われている薬剤評価の枠組みに取って代わるための情報提供が必要であるという点で合意しました。

武部博士は、検証研究の実施に関する複数の製薬会社のニーズを表すことができる「bridge entity」の有用性を提案しました。このデータは、オルガノイドを使用するケースを安全分析のいくつかの側面で規制当局と協力して支援するために使用できます。 Hamilton博士は臨床環境でのオルガノイド由来データの価値を明らかにするため、in vitro試験を臨床試験と対にして実施する必要性を強調しました。全体としては、オルガノイドが特に毒性アッセイにおいて適切に検証された場合に、この関心が大きくなるでしょう。武部博士は、「オルガノイドは、より標準的な医療と比較して未発達です。どのように標準化できるか、どのように結果を再現できるかについて考える必要があります。実際の医療応用に進む前に、このような変動性の問題に対処する必要があります」と述べました。

インタビュー:オルガノイド技術をさらに広めるために何が必要か?

What Needs to Happen To Expand Organoid Technologies Further?

 

プレゼンテーション紹介

各画像をクリックしますとウェビナーのサイト(外部リンク:STEMCELL Technologies社)にリンクします。
ウェビナーの視聴には、STEMCELL Technologies社ホームページへのログインが必要です。

ヒト疾患モデルとしてのオルガノイド

Organoids as Models for Human Disease

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演者:
Dr. Hans Clevers
(Hubrecht Institute, グループリーダー)

内容:
オルガノイド技術開発の先駆者として、多くの研究者にインスピレーションと基盤を提供してきたClevers博士が、どのようにして腸内のLgr5幹細胞を発見し、ミニ腸あるいはオルガノイドの培養につながったか、そして培養システムがどのように進化したかを解説します。

 

In VivoとIn Vitroにおける腸発生のモデル化

Modeling Intestinal Development In Vivo and In Vitro

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演者:
Dr. Kim Jensen
(Biotech Research and Innovation Centre, University of Copenhagen, グループリーダー)

内容:
腸オルガノイドを使用して、幹細胞運命の分子レベルでの制御のしくみを理解する方法を解説します。

 

ヒト脳発生のオルガノイドモデルにおける進展と課題

Progress and Challenges in Organoid Models of Human Brain Development

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演者:
Dr. Madeline Lancaster
(MRC Laboratory of Molecular Biology, University of Cambridge, グループリーダー)

内容:
脳オルガノイドを使用してヒトの神経発生と神経細胞の移動をモデル化する方法、および最近脳オルガノイドを気液界面(air-liquid interface)で培養した方法について解説します。

 

腸オルガノイド発達における自己組織化と対称性破壊

Self-Organization and Symmetry Breaking in Intestinal Organoid Development

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演者:
Dr. Prisca Liberali
(Friedrich Miescher Institute for Biomedial Research, グループリーダー)

内容:腸オルガノイドを使用して、組織化の設計原理を研究する方法について解説します。

 

肝臓の再生・疾患研究のための肝臓オルガノイド

Liver Organoids for the Study of Liver Regeneration and Disease

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演者:
Dr. Meritxell Huch
(Max Planck Institute of Molecular Cell Biology and Genetics, グループリーダー)

内容:
成人の肝臓オルガノイドを使用して、疾患メカニズムと再生を理解する方法を解説します。

 

幹細胞と疾患微小環境のオルガノイドモデリング

Organoid Modeling of Stem Cells and Disease Microenvironments

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演者:
Dr. Calvin Kuo
(Stanford University School of Medicine, 医学教授)

内容:
気液界面(air-liquid interface)で培養されたがん患者の腫瘍オルガノイドを使用して、腫瘍微小環境を研究する方法を解説します。

 

腸エンテロイドによる先天性小児下痢のモデリング

Modeling Congenital Pediatric Diarrhea in Intestinal Enteroids

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演者:
Dr. James Goldenring
(Vanderbilt University School of Medicine, 外科教授)

内容:
腸オルガノイドを使用して、膜貫通積荷輸送などの複雑なメカニズムをモデル化する方法を解説します。

 

オルガノイド医療への展望

The Promise of Organoid Medicine

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演者:
Dr. Takanori Takebe
(Cincinnati Children’s Hospital Medical Center, 助教授/現 東京医科歯科大学, 教授・横浜市立大学, 特別教授)

内容:
疾患や障害の臨床応用を拡げるために、オルガノイドがどのように使用できるかを解説します。

 

精密がん治療のための技術を可能にするオルガノイド

Organoids as an Enabling Technology for Precision Cancer Medicine

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演者:
Dr. Mathew Garnett
(Wellcome Sanger Institute, グループリーダー)

内容:
腫瘍をより正確に反映する新しいがんモデルを作成するために、腫瘍オルガノイドをバンキングする取り組みについて解説します。

 

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