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ラーニングコーナー

2019/05/23

IntestiCult Organoid Growth Medium (Human) を用いたがん細胞由来オルガノイドの培養

  • 用途別細胞培養

がんは世界において主要な死亡原因の1つであり、中でも大腸がんは最もよく見られるタイプのがんです。がん細胞株や動物モデルにより大腸がんについて多くの情報が得られてきましたが、最近ではがん由来の腸オルガノイドにより由来となるがんの組織構造、細胞の不均一性、形態をより忠実に再現する事が示されつつあります1)。このようなことから、がん由来のオルガノイドは、がんの進行、影響を受けるシグナリング経路、ニッチ要求性などを含むがん生物学の調査にとって有用な実験モデルである事が判明してきています2)。がん由来のオルガノイドにより、がん反応性T細胞集団の活性化及び増殖、患者特異的な治療転帰の予測、または潜在的な治療法のスクリーニングなどさらなるトランスレーショナルなアプリケーションもまた可能となります3),4)

本稿では、IntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human) (IntestiCultTM OGMH; Catalog #ST-06010)を用いたWnt非依存的ながん由来オルガノイドの培養についてご紹介します。包括的な説明には、本ページと併せてIntestiCultTM Product Information Sheet (PIS; Document #DX21423)もご覧ください。こちらのPISには、マテリアルリスト、生検サンプルからのヒト結腸陰窩の単離法、単離した結腸陰窩からのヒト腸オルガノイドの樹立法、継代によるオルガノイドの増殖及び維持方法に関する説明が記載されています。

IntestiCult OGMH内でのがん由来オルガノイドの増殖

IntestiCultTM.12-2.png

Figure 1. IntestiCultTM OGMH中でのがん細胞由来オルガノイドの増殖

オルガノイドは大腸がん生検からPublished Medium1)を用いて樹立され、樹立後は下記プロトコールに示すように IntestiCultTM OGMH (P0)へ交換しました。がん細胞由来オルガノイドは樹立後、継代後共にIntestiCultTMOGMH培養において有効な増殖を示しました。データはHubrecht Organoid Technology社の許可を得て使用しました。

大腸がん由来オルガノイド培養のプロトコール

下記のプロトコールは、Wnt非依存的大腸腫瘍生検サンプルをIntestiCultTM OGMH中で培養するために、Hubrecht Organoid Technology 社と共同開発されました。この方法では、Wnt経路に活性型変異を有していない腫瘍はオルガノイドとして維持できません。

A. 培地調製

次の例はWnt非依存的ながん細胞由来オルガノイドの培養のために100 mLのIntestiCultTM OGMHを調整する場合のものです(IntestiCultTM OGMH Component A + DMEM/F-12 with 15 mM HEPES)。100 mL以外の容量を調整する場合には、必要な容量に応じて調整してください。

  1. IntestiCult OGMH Component Aを室温(15 - 25°C)または2 - 8°Cで一晩融解してください。試薬はよく混合し、すぐに使用するか分注して-20°Cに保存してください(-20°C保存の場合は3ヶ月まで保存可能)。分注した試薬を溶解した後はすぐに使用し、再凍結はしないでください。
  2. 50 mL のIntestiCult OGMH Component Aを50 mL のDMEM/F-12 (15 mM HEPES含有)に添加します。試薬はよく混合し、すぐに使用しない場合は2 - 8°Cで1週間まで保存可能です。
  3. 抗生物質(例:50 μg/mL ゲンタマイシン)を使用直前に添加します。

B. 腫瘍生検からの組織単離

    1. 100 μL の Matrigel® を氷上で融解します。
      注: この容量は培養ドームを4つまで作成するのに十分な量です。
    2. 次の試薬類を氷上に静置してください。:D-PBS (Ca++ 及び Mg++不含)、及びDMEM + 1% BSA (試薬の調整についてはPIS [Document #DX21423]をご参照ください)
    3. 細胞培養用(Tissue culture-treated) 24ウェルプレートを37°Cのインキュベーター内で最低2時間温めます。
    4. 15 mLコニカルチューブにて、組織サンプルを10 mLの氷冷PBSで洗浄します。組織は重力によって沈降させ(~5秒)、上清を吸引します。
    5. ステップ4を再度行い、チューブ内の上清を1 mL残します。
    6. 1 mLピペッターを用いて、組織及び残っている上清を1.5 mLマイクロ遠心チューブに移します。
    7. 無菌ハサミを用いて、組織が5 mm以下の断片になるよう、よく切り刻みます。組織断片は、1 mLピペッターを用いて新しい15 mLコニカルチューブに移します。マイクロ遠心チューブをPBSでリンスし、そのリンス液を組織断片に添加します。
    8. 組織断片は重力によって沈降させ(~5秒)、上清を吸引します。
    9. 10 mL の Gentle Cell Dissociation Reagent(ST-07174)を添加します。中程度のスピード(~40 rpm)のシェーカー上で振盪しながら37°C、60分間インキュベートします。
    10. 290 xg で5分間遠心し、上清を吸引します。
      (プロトコールのリマインダーとして):ピペットチップは予めDMEM + 1% BSAでリンスしておいてください。これにより、陰窩がピペットチップの壁に粘着するのを防止する事ができます。
    11. 1 mLの氷冷DMEM + 1% BSAを添加します。1 mLピペッターを用いて、20回しっかりとピペッティングを行ってください。
      注:ピペットチップがチューブに触れないようにしてください。
    12. 1 mLピペッターを用い、チューブの内容物を、内容物がある側に傾けたセルストレーナー(メッシュサイズ70 μm)に通し、15 mLコニカルチューブに回収します。内容物が入っていたチューブを1 mLのDMEM + 1% BSAでリンスし、その液もセルストレーナーを通してコニカルチューブに回収します。

C. 単離した生検組織からのオルガノイド培養

単離した組織をオルガノイドとしてプレーティングする場合には、PIS (Document #DX21423)のsection Bのstep 2へ進んでください。がん性の組織由来のオルガノイドをプレーティングする場合には、IntestiCult OGMH 完全培地の代わりにsection A (上述)で調整した培地を使用します。成長培地は2日ごとに交換してください。継代は6-12日ごとに行う事が可能です。継代のための完全な説明については、PIS(Document #DX21423)のsection Cを参照してください。がん性の組織由来のオルガノイドを継代する場合には、IntestiCult OGMH 完全培地の代わりにsection A (上述)で調整した培地を使用します。

IntestiCultTM.13-3.png

Figure 2. IntestiCult Organoid Growth Medium (Human) により、異なる患者からオルガノイドの増殖が可能

大腸腫瘍からPublished Medium1)にてオルガノイドを樹立し、上記プロトコールに示す方法で継代した後にIntestiCult OGMH に変更しました。オルガノイドはIntestiCult で2回継代し、2回目の継代終了時(day 6 – 12)に撮像しました。(データはHubrecht Organoid Technology社からの提供)

使用製品リスト

PRODUCT CATALOG #
IntestiCultTM Organoid Growth Medium (Human) ST-06010
DMEM/F-12 with 15 mM HEPES ST-36254
Corning® Matrigel® Matrix, Growth Factor Reduced (GFR), Phenol Red-Free Corning® 356231
(コーニング社へお問い合わせください)
Gentle Cell Dissociation Reagent ST-07174
D-PBS (Without Ca++ and Mg++) ST-37350
CryoStor® CS10 ST-07930
70 μm Reversible Strainer, Small ST-27216
Costar® 24-Well Flat-Bottom Plate, Tissue Culture-Treated ST-38017

参考文献

  1. Sato T et al. (2011) Long-term expansion of epithelial organoids from human colon, adenoma, adenocarcinoma, and Barrett’s epithelium. Gastroenterology. 141(5): 1762–72.
  2. Fujii M et al. (2016) A colorectal tumor organoid library demonstrates progressive loss of niche factor requirements during tumorigenesis. Cell Stem Cell. 18(6): 827–38.
  3. Dijkstra K et al. (2018) Generation of tumor-reactive T cells by co-culture of peripheral blood lymphocytes and tumor organoids. Cell. 174(6): 1586–98.
  4. Vlachogiannis G et al. (2018) Patient-derived organoids model treatment response of metastatic gastrointestinal cancers. Science. 359(6378): 920–26

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