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ラーニングコーナー

2018/06/14

ザ・「オルガノイド」 - 革新的な3次元培養で作製された"ミニ臓器"

  • 用途別細胞培養

「オルガノイド研究ハンドブック」では、腸管・脳・膵臓・肝臓・腎臓・肺オルガノイドの培養プロトコル、アプリケーション、文献、FAQなどを紹介しています。

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2017年のライフサイエンスにおける奇抜な技術はなんですか?...ノーベル化学賞を受賞したクライオ電子顕微鏡技術だと言う方もいれば、DNAとRNAシーケンシングと言ったり、当然CRISPRテクノロジーと言ったりする方もいるでしょう。しかし、Nature Methodsの回答は「オルガノイド(Organoid)」です。

オルガノイドとは?

“ミニ臓器”と呼ばれたオルガノイドは、生体内の組織または臓器に極めて似ている3D(3次元)培養システムです。この3D培養システムは、分化した組織の複雑な空間的パターンを再現でき、細胞と細胞、細胞とマトリックスとの相互作用を示すことも可能です。理想的には、生体内の分化した組織と同様の生理学的応答を有します。2D(2次元)細胞培養モデルと異なり、オルガノイドは物理的、分子的および生理学的に組織と極めて類似しています。

オルガノイド:疾患治療に魅力的なポテンシャル

オルガノイドに関する今後の研究は、発達障害、遺伝疾患、癌、および変性疾患などの疾患モデルに焦点が当てられます。患者由来の多能性幹細胞(iPSCs)を用いて、非常に貴重な疾患モデルの樹立が可能になっています。オルガノイドはヒト細胞から直接形成することができるため、薬物の有効性および毒性のより効果的な確認または検出を可能にします。オルガノイドによる薬物動態および毒性試験により、前臨床試験における動物の使用を大幅に減少させることができます。オルガノイドのおかげで、in vitroで移植用の組織や臓器の作製をさらに進めることができます。

さまざまなオルガノイド(脳、腸、肝臓、腎臓、心臓など)

現在までに、3つの細胞系統(内胚葉、中胚葉と外胚葉)からの組織構造をモデル化するためのオルガノイド培養系が開発されました。異なる組織はそれら特定の培養方法を必要としますが、一般的には、適切な多能性幹細胞または組織特異的な前駆細胞をMatrigel®(または適切な細胞外マトリックス)に埋め込んで培養できます。 オルガノイドは、幹細胞集団の維持に必要なin vivoシグナルを模倣する特定の増殖因子を含有する培地で増殖します。これらの条件下で埋め込まれた細胞は増殖・自己組織化して、3Dオルガノイド構造になるオルガノイドとして無限に維持・継代することができます。 さらに肝前駆細胞のシングルセルをクローン増殖させ、継代3ヵ月の肝オルガノイドの全ゲノムシーケンシングところ、1つの同義置換だけでした。現在までにオルガノイドのモデルは、様々な組織(大脳、腸、肝臓、腎臓、心臓など)について報告されています。

オルガノイドに関する研究者の物語

Dr. Madeline Lancasterの偶然の喜び:「ミニ脳」

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Madeline Lancaster, PhD

Principal Investigator, MRC Laboratory of Molecular Biology, Cambridge, UK

2011年11月、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)をさまざまなタイプのニューロン集団に分化するよう努めてきたDr. Madeline Lancasterは、偶然に「ミニ脳」(脳オルガノイド)を作製しました。
培養していた細胞がプレート底面に付着せず、上に浮かんで奇妙なミルクのような球状懸濁液を形成していました。最初、彼女は何か分からず、顕微鏡下で注意深く観察した後、網膜の暗い細胞が発達していることに気づきました。その球の1つを切り取ったとき、さまざまな種類のニューロンが含まれていることがわかりました。これらの細胞は自己組織化して「ミニ脳」のようなものが形成されていました。
細胞はわずかな刺激を加えることで、驚くほど複雑な構造に「組み立てる」ことができます。現在、より複雑で成熟し、より高い再現性を持つような技術を向上させるために熱心に取り組んでいます。

Madeline Lancasterらが発表した論文を基に、さらにオルガノイドの形成効率と再現性を高めるように最適化された「ミニ大脳」培地

 

Dr. Hans Cleversの個性的な器官:「ミニ腸」

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Hans Clevers, PhD, MD

Group Leader, Hubrecht Institute, Netherlands

オランダHubrecht Organoid Technology:The HUB研究所のDr. Hans Cleaversの研究チームは、腸管幹細胞を用いた腸管オルガノイド(「ミニ腸」)の培養に成功しました。得られた「ミニ腸」は、多くの突出した中空ボール(典型的な腸の絨毛および陰窩(intestinal crypts))があり、実際の腸の構造とほぼ同じです。従って「ミニ腸」は、臨床薬物スクリーニングや疾患治療のための薬物の標的選択に使用することが可能です。彼らは培養した「ミニ腸」を用いて、治療薬のスクリーニングに使用し、Kalydeco(嚢胞性線維症治療薬)が100人の嚢胞性線維症患者に対して治療効果を有することが判明しました。

Hans Cleversらの報告に基づいて開発された「ミニ腸」培地。マウス用とヒト用があります。

 

武部 貴則 先生(Dr. Takanori Takebe)の「肝芽」-「ミニ肝臓」

Takanori Takebe, MD, PhD

Assistant Professor, UC Department of Pediatrics, Cincinnati Children’s Hospital
(現:Professor, Advanced Medical Research Center, Yokohama City University, Japan)

横浜市立大学大学院の武部 貴則 教授は、2010年にコロンビア大学の臓器移植部門に所属していたころ、一部の肝不全患者が移植臓器の不足が原因で死亡したのを目の当たりにし、「肝臓を作る」ことを志しました。 武部先生らは、ヒトiPS細胞から分化誘導した肝内胚葉細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞を共培養し2ヶ月後、自発的に3次元的に構造化されたレンズ豆サイズの「肝芽」(妊娠5週の胎児肝臓に類似)に成長させることに成功させました。 彼らは、肝不全をシュミレーションするため、まずいくつかの毒性薬物でマウスの正常な肝機能を失わせました。その1ヶ月後「肝芽」移植を受けたマウスは生存しましたが、受けていないマウスはほぼ死亡したことを確認しました。何万個の「肝芽」を肝不全患者の肝臓に注入できれば、肝移植を必要とせずに多くの肝機能を回復に役立つと期待されています。

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オルガノイド用培地 情報

STEMCELL Technologies社では、対象の臓器に合わせてさまざまな培地を取り扱っています。

STEMdiff Cerebral Organoid Kit

Madeline Lancasterらが発表した論文を基に、さらにオルガノイドの形成効率と再現性を高めるように最適化された「ミニ大脳」培地

IntestiCult Organoid Growth Medium

Hans Clevers法に基づいて開発された「ミニ腸」培地。マウス用とヒト用があります。

HepatiCult Mouse Organoid Growth Medium

Dr. Metrixwell Huchが発表した論文をもとに改良された、よりシンプルな「ミニ肝臓」培地

PancreaCult Mouse Organoid Growth Medium

Meritxell Huchが発表した論文をもとに開発された「ミニ膵臓」培地

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