研究者の声

2020/12/08

大脳皮質オルガノイドにおける痙攣陽性化合物および抗てんかん薬の応答 研究者の声【27】

  • 用途別細胞培養

前臨床試験における医薬品の神経毒性評価および探索段階における薬効評価において、ヒトiPS細胞由来ニューロンはヒトへの外挿性を担保できる可能性からその利用が期待されている。中でも、培養神経ネットワークの機能(電気活動)を指標とした医薬品の痙攣毒性評価などの取り組みが盛んに行われている (1-2)。しかしながら、in vitroにおける神経ネットワークの分散培養は、ランダムな構造であり、生体脳の構造を有していない。近年、急速に研究が進んでいる脳オルガノイドは、3次元構造を有し、生体脳の構造の一部を再現できる。脳オルガノイドを用いた評価は、よりヒト生体組織に近い環境で医薬品の毒性および薬効評価が可能となると期待される。本稿では、大脳皮質オルガノイドの電気活動における痙攣陽性化合物および抗てんかん薬に対する反応の一部を紹介します。

研究者紹介

所属:東北工業大学 大学院工学研究科 電子工学専攻 准教授

鈴木 郁郎 先生

方法及び材料

健常者由来ヒトiPS細胞(201B7)をGentle Cell Dissociation Reagent (ST-07174, STEMCELL Technologies)を用いて培養ディッシュから回収した。回収した細胞をEB Seeding Mediumを用いて96well ディッシュに播種し、培養2、4日目にEB Formation Mediumを添加した。培養5日目にオルガノイドをInduction Medium を用いて24wellディッシュに移動した。培養7日目にオルガノイドをマトリゲル(354277, Corning)で包埋し、Expansion Mediumで3日間培養した。培養10日目にMaturation Mediumに全量交換し、オービタルシェイカー上でオルガノイドを形成した。オルガノイド形成用の培地は全て、STEMdiff Cerebral Organoid Kit(ST-08570, STEMCELL Technologies)を用いて作製した。培養3か月目に培地をBrainPhys(ST-05792, STEMCELL Technologies)に変更し、培養4か月目に電気活動計測を行った。作製した大脳皮質オルガノイドを微小電極アレイ(microelectrode array; MEA)上にマウントし、MEA計測システム(Presto, Alphamed scientific)を用いて自発活動を記録し、痙攣陽性化合物であるpentylenetetrazol (PTZ)及び抗てんかん薬であるpheytoin、perampanelを各5用量投与した。

結果

大脳皮質オルガノイドにおける痙攣陽性化合物および抗てんかん薬の応答3-1.png

図1 大脳皮質脳オルガノイドと免疫染色画像
(A)マルチウエルMEA上に配置した大脳皮質オルガノイド(B)培養4か月目の大脳皮質オルガノイドの位相差画像(C)培養3か月目の大脳皮質オルガノイド断面の免疫染色画像
青:Hoechst 33258、緑:Pax6、赤:β-Tubulin III、黄:CTIP2.

【大脳皮質オルガノイド】

図1のAは、マルチウエルMEAに大脳皮質オルガノイドを並べた写真を示している。培養4か月目には数ミリ程度の大きさのオルガノイドに成長する(図1-B)。図1のCは培養3か月のオルガノイド切片を免疫染色した画像である。神経マーカーであるβ-TubulinⅢ、大脳皮質マーカーであるCTIP2の発現が確認された。

痙攣陽性化合物および抗てんかん薬投与による応答

図2 痙攣陽性化合物および抗てんかん薬投与による応答
(A)ペンチレンテトラゾール投与による10分間の生波形(Vehicle, 0.1, 0.3, 1, 3, 10 mM)。16電極で得られたスパイク数の変化(Vehicle=100%)。
(B)ぺランパネル投与時の生波形とスパイク数の変化(Vehicle, 0.03, 0.1, 0.3,1, 3 µM)。
(C)フェニトイン投与時の生波形とスパイク数の変化(Vehicle, 3, 10, 30,100, 300 nM)。

【痙攣陽性化合物に対する応答】

GABA-A受容体阻害を主作用に持つ痙攣陽性化合物であるぺインチレンテトラゾール(PTZ)を用量依存的に投与した際に得られたMEAデータを図2Aに示す。用量依存的に、神経活動が持続した痙攣様の波形データ(神経ネットワークの同期バースト活動の持続)が観察された。培養神経細胞の場合は、単発の同期バースト発火の頻度が上昇するなどの変化で観察されるが、脳オルガノイドの場合は、最初の同期バースト発火直後から持続的な応答が観察された。生体脳で痙攣時に観察される脳波に近い応答を示すことが非常に興味深い。解析パラメータとして発火数を算出すると、用量依存的な発火数の増加が認められた(図2A右)。しかしながら、持続的な同期バースト発火の特性が有効な指標となる為、定量化法は新たに構築する必要がある。

【抗てんかん薬に対する応答】

AMPA型グルタミン酸受容体に主作用を持つ抗てんかん薬であるぺランパネルを投与した結果を図2Bに示す。用量依存的に同期バースト発火が減少する様子が観察された。図2B右に示す発火数の変化からも顕著な減衰応答がわかる。図2Cは、Na+チャンネル阻害を主作用に持つ旧世代抗てんかん薬であるフェニトインを投与した結果である。100μMおよび300μMでは顕著に発火数は減少したが(図2C右)、発火消失に至る過程において(低中用量で)、同期バースト群の発生が認められた(図2C左)。フェニトインは副作用も報告されているので、同期バースト群の検出は興味深い。脳オルガノイドを用いて、抗てんかん薬の種類による電気活動の差異を見出せることがわかった。

結論

大脳皮質脳オルガノイドのMEA計測にて、痙攣陽性化合物および抗てんかん薬の用量依存的な応答を検出することができた。痙攣陽性化合物であるペンチレンテトラゾールでは、培養神経細胞では見られない持続的な同期バーストの発生が認められ、フェニトイン投与においては低中用量で同期バースト群が認められた。培養細胞に比べ、生体脳に近い応答であると考えられ、脳オルガノイドの電気活動を指標とした痙攣毒性評価および薬効評価への展開が期待される。疾患脳オルガノイドを用いた疾患特的な応答検出および医薬品の評価を進めて行きたい。

参考文献

  1. A. Odawara, N. Matsuda, Y. Ishibashi, R. Yokoi & I. Suzuki. Toxicological evaluation of convulsant and anticonvulsant drugs in human induced pluripotent stem cell-derived cortical neuronal networks using an MEA system, Scientific Reports, 8, 10416, 2018
  2. T. Shirakawa, I. Suzuki, Approach to Neurotoxicity using Human iPSC Neurons: Consortium for Safety Assessment using Human iPS Cells, Curr Pharm Biotechnol., 10.2174/1389201020666191129103730, 780-786, 2020
  3. R. Roberts, S. Authier, D. Mellon, M. Morton, I. Suzuki , R. Tjalkens, JP. Valentin, JB Pierson., Can We Panelize Seizure?, Toxicological Sciences, 2020, in press

製品のご案内

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継代用剥離試薬「Gentle Cell Dissociation Reagent」

商品コード 商品名 梱包単位
ST-85850 mTeSR1 - cGMP 1 kit
ST-100-0276 mTeSR Plus-cGMP 1 kit
ST-07174 Gentle Cell Dissociation Reagent 100 mL
ST-05872 ReLeSR 100 mL

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ST-08570 STEMdiff Cerebral Organoid Kit 1 kit
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商品コード 商品名 梱包単位
ST-05792 BrainPhys Neuronal Medium and SM1 kit 1 kit

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