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2021/12/01

気道上皮頂端面へアクセスできる画期的な肺オルガノイドの作製

  • 用途別細胞培養

気道上皮の頂端面を外側に向けた新しい肺オルガノイドである「頂端気道オルガノイド」は、気道上皮細胞の頂端面へのアクセスとハイスループットスクリーニング(HTS)への適用性を同時に満たすことができます。

気道上皮モデルと肺オルガノイド

ヒト気道上皮のin vitro 3次元モデルとして有用な「肺(気道)オルガノイド」は、通常は気道上皮の基底面を外側に向けた状態で形成されます(図中央)。肺オルガノイドの構造上、通常の肺(気道)オルガノイドでは内腔に向いた頂端面へのアクセスが制限されることが課題でした。オルガノイドとは異なるin vitro 3次元モデルとして知られる「気液界面(ALI)培養」(図右)なら気道上皮の頂端面に容易にアクセスできますが、組織培養インサート上で細胞を培養するため、オルガノイドに比べてハイスループットスクリーニング等への適用が難しくなります。一方で、肺オルガノイドの培養系にMatrigel®の添加を必要とする点は、作業の手間や実験の再現性の面で必ずしも最適ではありませんでした。

STEMCELL Technologies社では、気道上皮の頂端面を外側に向けた画期的な肺オルガノイド「頂端気道オルガノイド」(図左)を作製する培地を開発しました。このPneumaCult™ Apical-Out Airway Organoid (AOAO) Medium(商品コード:ST-100-0620)にはMatrigel®を添加する必要もなく、頂端面へのアクセスとハイスループットスクリーニングへの適用性とを同時に満たすことができます。

気道上皮のin vitro 3次元モデル

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PneumaCult™ Apical-Out Airway Organoid Mediumの特長

PneumaCult™ Apical-Out Airway Organoid (AOAO) Mediumは、シンプルで拡張性に優れたMatrigel®不使用の培養プロトコルによって、ヒト気管支上皮細胞(HBEC)またはヒト気道上皮細胞(HAEC)から15日以内に頂端面を外側にもつ成熟したヒト気道オルガノイド(頂端気道オルガノイド)を生成することができます。これらのオルガノイドを用いると、気道上皮の頂端側へアクセスすることができ、in vitroの3次元(3D)モデル系による感染症モデリングまたはハイスループット薬物スクリーニングを実施できます。

  • ヒト気道上皮の頂端側へ容易にアクセスできる、便利なin vitroの培養系です
  • Matrigel®不使用のため、下流アプリケーションのための処理が簡単です
  • ドナーの違いによらず均一なオルガノイドを生成できます
  • 薬物のハイスループットスクリーニングへの応用に適しています

 

頂端気道オルガノイドのアプリケーション

下記研究分野において、頂端気道オルガノイドを呼吸器の感染症モデル、ハイスループット薬剤スクリーニングなどに応用することが可能です。

  • インフルエンザウイルス
  • SARS-CoV-2(2019新型コロナウイルス)
  • 肺炎
  • 百日咳
  • 結核
  • 中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス
  • ワクチン(細菌、ウイルス、混合)

 

頂端気道オルガノイドの作製方法

PneumaCult™ Apical-Out Airway Organoid (AOAO) Mediumによる頂端気道オルガノイドの樹立(図下)では、ヒト気管支上皮細胞またはヒト気道上皮細胞をAggreWell™ 400 24-well plate(商品コード:ST-34415)に播種し、1〜6日間かけて凝集させます。その後、AggreWell™ 400から取り外した凝集体の懸濁液を24ウェル平底プレートに移して9〜14日間分化させることで、波打つ繊毛をもつ頂端気道オルガノイドが得られます。
実験の再現性を最大化するため、培地には血清およびBPEは含まれていません。
また、通常の気道オルガノイドの樹立(図上)で必要になるMatrigel®ドームへの埋め込みやMatrigel®の添加は不要で、完全にMatrigel®フリーの条件下で頂端気道オルガノイドを樹立することができます。さらに、ALI培養で必要になる透過性の組織培養インサートも使用しません。

通常 vs 頂端気道オルガノイド

通常の気道オルガノイド(PneumaCult™ Airway Organoid Kitの例)

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頂端気道オルガノイド

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備考:

  • PneumaCult™ AOAO Mediumによる頂端気道オルガノイドでは、杯細胞は形成されません
  • PneumaCult™ AOAO Mediumと、AggreWell™ 400 24-well plate 1枚または5枚とのセット品もあります(商品コード:ST-100-0746 または ST-100-0747)
  • オルガノイド培養の開始前にヒト気管支上皮細胞またはヒト気道上皮細胞を拡大培養するには、PneumaCult™-Ex Plus Medium(同:ST-05040)をご利用ください

 

頂端気道オルガノイドのデータ紹介

頂端気道オルガノイドを高効率に作製できます

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2D培養で増殖した継代3~8回目の細胞100個(3名のドナー由来)を播種し、頂端気道オルガノイドを作製しました。(A)15日目の24ウェルプレート1ウェルあたりに生成されたオルガノイド数。各点は独立したウェルの測定値を表します。(B) 2つの異なる手法(ECMフリーのPneumaCult™ Apical-Out Airway Organoid Mediumワークフロー、またはECM除去後の極性反転)の効率を、播種に用いたオルガノイド総数に対する培養終了時の頂端気道オルガノイドの割合で表しています。

頂端気道オルガノイド作製を標準化できます

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細胞外マトリックスを含まず、AggreWell™400 24-well plateを用いて凝集させることで、培養の均一性を保ち、形状やサイズが非常に似た頂端気道オルガノイドを標準的に作製できるようにしました。各ドナーで継代3回目に、3つの個別ウェルからオルガノイド750個を数え、(A)頂端気道オルガノイド直径の頻度を示すヒストグラムを作成しました。直径は全ドナー間で一貫しており、培養の均質性を裏付けています。オルガノイドを構成する細胞数を定量化するため、継代3回目のオルガノイドを固定し、DAPIで染色し、核の数を可視化するために画像化し、(B)各オルガノイドを構成する細胞数を決定しました。オルガノイドは平均62個の細胞で構成されており(95%信頼区間は6.77)、細胞レベルでの均質性を示しました。(C)15日目のオルガノイドにおける線毛細胞の割合、および(D)拍動線毛のある運動性オルガノイドの割合。ほぼすべてのオルガノイドが機能性の拍動線毛を有し、複数回継代しても懸濁液中で運動できたことから、培養の均質性がさらに示されました。

オルガノイド作製のスケールアップも可能です

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ヒト気道上皮細胞(HAEC)を、PneumaCult™ Apical-Out Airway Organoid Mediumを用いて、6ウェルおよび24ウェルのAggreWell™ 400プレートに同密度で播種しました。各点は、継代5回目の15日目に分析した個別ウェルを表します。(A)6ウェルプレートでは24ウェルプレートに比べて平均で3倍多くのオルガノイドが得られました。(B)6ウェルと24ウェルで、オルガノイドは同様の分化能および線毛細胞頻度を示しました。(C)6ウェルと24ウェルで、オルガノイドサイズは高度に均質性を示しました。以上のことから、品質と機能性を損なわずに気道オルガノイドの生産量を拡大できることが示唆されます。

さまざまな気道細胞タイプの遺伝子を発現しています

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PneumaCult™ Apical-Out Airway Organoid Mediumで培養した頂端気道オルガノイドにおける一般的な分化マーカーRNAレベルの倍数変化を示すヒートマップ(3名のドナーの、2つの異なる継代にわたる変化)。結果は、PneumaCult™-Ex Plus Mediumで培養し継代3回目で解析したHBEC(n = 3)に対して正規化しました。線毛細胞マーカーFOXJ1およびTUBB4Bは、ALI培養と比べて終末分化した頂端気道オルガノイドで発現が上昇しました。加えてACE2およびTMPRSS2マーカーの存在から、頂端気道オルガノイドがSARS-CoV-2のようなウイルスによる呼吸器感染症モデルに適したin vitroのツールであることが示唆されます。

終末分化すると成熟した極性化気道上皮を示します

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(A)PneumaCult™ Apical-Out Airway Organoid Mediumで培養した15日目の頂端気道オルガノイドには、外向き頂端細胞表面のアセチル化チューブリン(AC. TUB;緑)の存在で確認できるとおり線毛細胞が含まれます。一方、ケラチン5(KRT5;赤)を発現する基底細胞は繊毛細胞と並んで存在しています。(B)細胞間タイトジャンクションタンパク質ZO-1(赤)は、オルガノイド頂端側で容易に可視化されます。以上の結果は、複数回の継代にわたって頂端面を外側に向けたオルガノイドを効率的に作製できたことを示しています。
(C)線毛細胞マーカーであるアセチル化チューブリン(AC.TUB、黄)と、SARS-CoV-2の主要侵入マーカーACE2(赤)の存在も示されており、SARS-CoV-2の呼吸器感染モデルとしての有用性が示唆されます。

インフルエンザなどのウイルス感染に対する感受性があります

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(A)終末分化した頂端気道オルガノイドをインフルエンザA(IAV)、インフルエンザB(IBV)、ライノウイルスA16(RV-A16)に感染させました。24時間間隔で採取したサンプル上清中のウイルス量をqPCRで検出しました。各点は生物学的反復(n = 3)の平均値、エラーバーは標準偏差を表します。(B)模擬感染オルガノイドと比較すると、(C)RV-A16、(D)IAV、(E)IBVに感染したオルガノイドは48時間経過後に細胞変性効果(CPE)の明確な兆候を示しました。IAVまたはIBVに感染したオルガノイドで高レベルのCPEが観察された一方で、RV-A16に感染したオルガノイドでは中程度のCPEしか観察されず、各ウイルスの病原性の違いを検出できました。

呼吸器系ウイルス感染に対する感受性があり、薬剤の抗ウイルス効果が観察できます

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PneumaCult™ Apical-Out Airway Organoid培養系が一般的な呼吸器系ウイルスに感染しやすいかどうかを評価するため、15日目の分化オルガノイドをエンテロウイルス-D68(EV-D68)に感染させました。(A)感染後0時間で、EV-D68(VP1、緑)の頂端表面(線毛細胞、アセチル化チューブリン、赤)への結合が確認されました。(B)6時間後、ウイルス複製サイクルの中間段階である二本鎖RNA(dsRNA、赤)を含む細胞が確認されました。これらの細胞はウイルスタンパク質(VP1、緑)にも陽性で、(CおよびD、橙色バー)高いウイルスRNA力価を生じ、(E)細胞変性効果(CPE)の証拠を示しました。(C、青緑色バー)イトラコナゾール(ITZ)処理により、ウイルスRNAレベルは約2桁減少し、(F)CPEレベルはわずかに改善されました。(D、青緑色バー)ルピントリビル(RUP)処理により、ウイルス複製が完全阻害され、(G) CPEが消滅しました。(H)感染後72時間の相対蛍光単位(RFU)の測定は、オルガノイドのATPレベルと生存率の変化を示し、EV-D68感染後に生存率が急低下することを明らかにしました。ITZ処理した感染オルガノイドでは部分的にレスキューされましたが、RUP処理したものはほぼ完全にレスキューされました。

参考資料

肺(気道)オルガノイドに関連する技術資料をご紹介します。

通常の肺(気道)オルガノイドの作製

PneumaCult Airway Organoid Kit 製品情報

ウェビナー:気道上皮モデル

In Vitro Human Airway Modeling Using Primary Airway Epithelial Cells

(動画の視聴にはSTEMCELL Technologies社ウェブサイトにて登録が必要です。)

ミニレビュー:ヒト気道上皮モデル

Airway Epithelial Cells of the Human Respiratory System

(STEMCELL Technologies社ウェブサイトにリンクします。)

プロトコル:上皮オルガノイドの免疫染色

Performing Immunocytochemical Staining of Epithelial Organoids

(STEMCELL Technologies社ウェブサイトにリンクします。)

 

関連リンク

 

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