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ラーニングコーナー

2021/04/05

呼吸器系研究のための気液界面(Air-Liquid Interface)培養法

  • 用途別細胞培養

呼吸器系の研究において、in vitroで気道上皮の生理的環境を再現することができる気液界面(ALI: Air-liquid interface)培養は非常に有用です。
本稿では、ヒト気管支上皮細胞のALI培養の特徴やアプリケーションをご紹介します。

併せてこちらもご確認ください。(https://www.stemcell.com/technical-resources/methods-library/cell-culture/endodermal-cells/pulmonary-cell-culture/air-liquid-interface-culture-respiratory-research-lp.html

ヒト気管支上皮

ヒト気道の気管支領域の上皮層は、多列線毛円柱上皮細胞に分類されます。この領域は主に3つの種類の細胞:線毛細胞、分泌細胞(主として粘液を分泌する杯細胞 [ゴブレット細胞])、基底細胞から形成されています。1
気管支上皮は、吸引された様々な有害物質(毒素、汚染物質、病原体など)に対する防御バリアとして機能しています。こういったバリア機能は主に次の3つの上皮細胞の機能的特徴によって維持されています:

  1. タイトジャンクション関連タンパク質: 物理的なバリア機能に必須である上皮の完全性を保ちます。
  2. 粘液分泌: 分泌された粘液は微粒子状物質や病原体をトラップします。トラップされた物質はその後、線毛細胞による粘液線毛の協調的なエスカレーター運動に依存したクリアランス機構により気道の外へと輸送されます。2,3
  3. 抗微生物ペプチド、炎症性メディエーターの分泌: 病原体や毒性物質に対して化学的・免疫学的なバリアを形成します。4

気道上皮の生理的状態を忠実に再現するモデルの必要性は高まってきていますが、上記のような複雑な機能をin vitroで再現することは難しい課題となっています。

In Vitro気道上皮培養モデル

ヒトの呼吸器系モデルには、BEAS-2Bや16HBE14oのような不死化された細胞株、動物やヒトドナー由来のプライマリー細胞など様々な種類の細胞が使用されます。
通常は不死化された細胞株や動物由来のプライマリー細胞が使用されますが、これらのモデルを使って得られたデータはヒトのシステムにそのまま適用することはできません。5
ヒト気管支上皮のプライマリー細胞は液内培養が可能ですが、このシステムでは粘液線毛の分化が起こりません。In vivoで見られる多列線毛円柱上皮の形質を再現するためには、プライマリーのヒト気管支上皮細胞(HBEC: Human bronchial epithelial cell)を気液界面(ALI: Air-liquid interface、Figure 1参照)で培養する必要があります。6

ALI培養法では、細胞の基底部表面は液体培地に接触し、頂端部分の表面は空気に触れているのが特徴的です。この培養法では、まず細胞をカルチャーインサートの透過膜部分に播種し、細胞の基底部、頂端部両方から培養液が供給されるようにします(Figure 1A)。
一度細胞がコンフルエントになったら、基底チャンバーのみから培地が供給される「エアリフト」培養に移行します (Figure 1B)。この構造はヒト気道の環境を模したものであり、粘液線毛の分化が促進されます。

呼吸器系研究のための気液界面(Air-Liquid Interface)培養法1.jpg

Figure 1. 気液界面(ALI: Air-liquid interface)培養
浸透性カルチャーインサートを用いて増殖させたヒト気管支上皮細胞の(A)液内培養と(B)ALI培養の概要図

関連動画

PneumaCult™-ALI Optimized Medium for Air- Liquid Interface Culture of Bronchial Epithelial Cells
(気管支上皮細胞の気液界面培養のために最適化された専用培地)
動画の視聴はこちら>>

生理的環境を再現するALI培養法

プライマリーHBECのALI培養は、生理的環境を反映した呼吸器系研究を可能にする重要な培養システムとしての認識が高まってきています。5 ALI培養法で培養されたHBECでは 良好な粘液線毛の分化がみられることから、この培養法はin vivoの気道の環境を忠実に再現するモデルとなると考えられています。ヘマトキシリン・エオシン (HE) 染色、過ヨウ素酸シッフ (periodic acid-Schiff (PAS)) 染色により、ALI培養法で培養されたプライマリーのヒト気管支上皮細胞 (Figure 2A、2C) ではin vivoの気管支上皮 (Figure 2B、2D) と同様、偽重層の形態をしており、線毛細胞や粘液分泌細胞 (PAS陽性) などから成るヘテロな細胞集団によって形成されていることが分かっています。

このモデルではまた、タイトジャンクション関連タンパク質の発現、高い経上皮電気抵抗発生が確認されることから上皮バリア機能を有していることも特徴です。6 ALI培養法の気道モデルとしての適性は、トランスクリプトーム解析7や、病原体や毒性物質などの有害物質に対する生理応答に関する広範な研究によって確認されています。8–10 さらに、喘息、嚢胞性線維症、COPD (慢性閉そく性肺疾患) などの呼吸器疾患患者由来のプライマリー細胞を使ったALI培養ではin vivoで見られる疾患の特性が再現されており、強力なin vitro疾患モデルとなっています。11,12

呼吸器系研究のための気液界面(Air-Liquid Interface)培養法2.jpg

Figure 2. 気液界面(Air-Liquid Interface)で培養したヒトプライマリー気管支上皮細胞では、in vivoの気管支上皮が再現されています
ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色(A-B)、過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色(C-D)より、PneumaCult™-ALI (A, C)で培養した場合にはin vivoの気管支上皮(B, D)の特徴である偽重層上皮が形成されていることが分かります。(データはSamuel Wadsworth氏より提供)

気液界面(ALI)培養法のためのPneumaCult™-ALI Medium


PneumaCult™-ALI Medium(ST-05001)は、プライマリーのHBECのALI培養において促進されている粘液線毛分化を再現性良くサポートするために最適化された、無血清かつBPE(ウシ脳下垂体抽出物)フリーの培地です。詳細な情報はこちら>>>

ALI培養法が利用可能なアプリケーション

ALI培養法は幅広い実験に利用でき、呼吸器系の研究において非常に大きなポテンシャルを秘めています。このポテンシャルには、液内培養法では対応できない多くの特化したアプリケーションへの利用可能性も含まれています。気道上皮細胞のALI培養は、次のような研究に適しています:

  • 気道上皮の細胞生物学研究:
    ALI培養法はin vitroで気道上皮の研究をおこなう上で、最も生理的状態を再現しているモデルです。6
  • 呼吸器系疾患のモデリング:
    嚢胞性繊維症、COPD(慢性閉そく性肺疾患)、喘息といった慢性の呼吸器系疾患患者に由来する気道上皮細胞をALI培養法で培養し、in vitroで病態メカニズムを研究することができます。11,12
  • 気道上皮の感染に関する研究:
    完全に分化した呼吸器系細胞のみをターゲットとするウィルスがあり、そういったウィルスの感染研究に利用することができます。13,14
  • 吸引送達用治験薬の製剤:
    エアロゾル粒子はセミドライとなっている培養細胞頂端部表面に直接沈着するため、これによりin vivoの肺表面への粒子沈着を模倣することができます。15,16
  • 吸引された物質の毒性検査:
    ALI培養法により分化したプライマリー上皮細胞の毒性物質(タバコの煙に含まれる成分など)への応答は、ヒト気道で報告されている変化(応答)を非常に忠実に再現しています。17,18

参考文献

  1. Ehrhardt C, et al. Drug Absorption Studies II: 235-257, 2008
  2. Fahy J V and Dickey BF. New Engl J Med 363(23): 2233-2247, 2010
  3. Button B, et al. Science 337(6097): 937-941, 2012
  4. Tam A, et al. Ther Adv Respir Dis 5(4): 255-273, 2011
  5. Bérubé K, et al. Toxicology 278(3): 311-318, 2010
  6. Prytherch Z, et al. Macromol Biosci 11(11): 1467-1477, 2011
  7. Dvorak A, et al. Am J Respir Cell Mol Biol 44(4): 465-473, 2011
  8. Thaikoottathil J V, et al. Eur Respir J 33(4): 835-843, 2009
  9. Krunkosky TM, et al. Microb Pathog 42(2-3): 98-103, 2007
  10. Palermo LM, et al. J Virol 83(13): 6900-6908, 2009
  11. Ostrowski LE, et al. Lung 190(5): 563-571, 2012
  12. Comer D, et al. Eur Respir J doi: 10.1183/09031936.00063112
  13. Matrosovich, MN et al. Proc Natl Acad Sci U S A 101(13): 4620-4, 2004
  14. Hao W, et al. J Virol 86(24):13524-13532, 2012
  15. Lin H, et al. J Pharm Sci 96(2): 341-350, 2007
  16. Tralau T and Luch A. Trends Pharmacol Sci 33(7): 353-364, 2012
  17. Andreoli C, et al. Toxicol in Vitro 17(5-6): 587-594, 2003
  18. Balharry D, et al. Toxicology 244(1): 66-76, 2008

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