注目の製品情報
2025/08/14
より生理的なヒト腸オルガノイドの培養には「IntestiCult™ Plus」
- 用途別細胞培養
ミニ臓器ともいわれるオルガノイドは3次元(3D)の培養技術によりin vitroで作製され、疾患プロセスのin vitroモデリングや薬物試験をはじめ幅広い用途に利用されています。腸オルガノイドは、腸上皮の発生と機能の研究、腸疾患モデル、標的低分子スクリーニング、さらには腸管上皮幹細胞の特性や、再生医療の研究など、様々なアプリケーションに利用可能です。
本稿では、STEMCELL Technologies社が「IntestiCult™」の改良品として開発した、腸オルガノイド培地「IntestiCult™ Plus」をご紹介します。
腸オルガノイドのメリット
腸オルガノイドの何が優れているか
- 2D培養に比べて、生体組織の複雑な微小構造および機能を模倣
- 動物モデルに比べて、コストと時間を削減
- 腸内細菌や他組織との共培養により、生体内の複雑な相互作用の研究モデルを実現
IntestiCult™ Plusの特徴
増殖と分化を両立し、従来の培地ではできなかった細胞型もサポート
IntestiCult™ Plus(IntestiCult™ Plus Organoid Growth Medium、製品コード:ST-100-1677)で腸オルガノイドを培養することで、生物学的な忠実性が高まり、ヒト生体内の腸の複雑さをよりよく反映できます。従来の、増殖と分化を別々に行う方法とは異なり、IntestiCult™ Plusは幹細胞と分化細胞のサポートを両立する、血清およびconditioned mediumフリーの完全培地です。
IntestiCult™ Plusで培養した腸オルガノイドは、領域特異的な出芽および陰窩様構造を発達させ、第1世代のIntestiCult™培養系(IntestiCult™ Organoid Growth Medium(ST-06010)およびIntestiCult™ Organoid Differentiation Medium(ST-100-0214))と比べて、より正確な腸上皮構造のin vitro モデルとなります。IntestiCult™ Plusは、パネート細胞、腸内分泌細胞、腸クロム親和性細胞、杯細胞、タフト細胞などの重要で特殊な腸細胞型の信頼性の高い出現を促進しながら、堅牢なLgr5+幹細胞増殖を維持します *。このモデルはまた、小腸分化などの用途でのWntフリー培地の作製、あるいはWnt非依存性の大腸がんオルガノイド培養の促進にも適合します。
* 第1世代のIntestiCult™ Orgaoid Growth Mediumでできなかった細胞への分化:
詳しくは「データ紹介:基本性能」の項、「IntestiCult™ Plusで増殖したオルガノイドでは、杯細胞および腸内分泌細胞系統の割合が増加」を参照してください。
IntestiCult™ Plusは、幹細胞と多様な成熟細胞からなるヒト腸管の生理学的バランスを再現した腸オルガノイドを作製することで、腸オルガノイドによる疾患モデル、薬物評価、毒性評価などの信頼性を高めます。
IntestiCult™ Plus の主なメリット
- 多様な細胞型をサポートし、完全な陰窩絨毛軸をモデル化するオルガノイドにより、生理学的な妥当性を向上
- 増殖と分化の同時進行でオルガノイド生産を加速し、アッセイに使用できるオルガノイドをより早く提供
- 無血清、conditioned mediumフリーの組成でばらつきを最小限に抑え、再現性のある結果を確保
- 既知組成に基づいて培地を最適化し調製する煩雑な工程を回避
IntestiCult™ Plusによるヒト腸オルガノイドの増殖
2種の培地(IntestiCult™ Plus Start Medium および IntestiCult™ Plus Balance Medium)を調製・使用し、腸オルガノイドの継代/培養を繰り返すことで増殖させます。
詳しくは、製品添付文書を参照してください。
動画による製品紹介
画像をクリックすると、STEMCELL Technologies社のウェブサイトにリンクします。ウェビナーの視聴には登録が必要です。
The Hidden Variable in Your Intestinal Organoids
Martin Stahl 博士(STEMCELL Technologies社 シニアサイエンティスト)が腸オルガノイドの分化段階や細胞構成を把握することの重要性と、IntestiCult™ Plusでどのように細胞型のバランスを改善できるかを解説します。
(2025年6月公開、収録時間 56分)
視聴者からの質問と回答(Q&A)は、こちら>>
データ紹介:基本性能
IntestiCult™ Plusで培養したオルガノイドでは、出芽(Budding)とクリプト様構造が増加
十二指腸、回腸、および結腸組織由来のオルガノイドの培養画像。第1世代のワークフロー(IntestiCult™ Organoid Growth MediumとIntestiCult™ Organoid Differentiation Mediumを使用)により増殖・分化させたオルガノイドは、最初に薄壁の嚢胞様形態を示し、分化に伴い暗色化し厚みを増します。一方で、IntestiCult™ Plusで培養したオルガノイドは、複雑な出芽形態であり、腸管の3領域間で微細ながらも一貫した形態の差異があります。この出芽形態は、分化の促進とクリプト(陰窩)様上皮組織の形成を示唆します。
Matrigelドーム = 50 µL;スケールバー = 250 µm。
IntestiCult™ Plusは、平均分割比の高い増殖を長期にサポート
(A)IntestiCult™ Plus Organoid Growth Mediumおよび代表的な第1世代の増殖培地(IntestiCult™ Organoid Growth Medium)を使用して、十二指腸、回腸、および結腸由来の患者オルガノイド株を増殖させました(領域あたりn = 2ドナー)。
(B)IntestiCult™ Plusで培養したオルガノイドは腸管の3領域すべてで、35継代(245日)にわたって一貫した形態と増殖速度を維持し、第1世代培地と比較して高い平均分割比(7日ごとに1:10)を達成しました。分割比とは、新しい増殖容器に移される細胞の分量を指し、例えば1:10は、継代時に1個のコンフルエントなフラスコから10個の新しいフラスコに再播種できることを示します。
IntestiCult™ Plusでは、腸オルガノイドの分化細胞型に関連する主要マーカー発現が増加
十二指腸、回腸、および結腸の組織由来オルガノイドにおける(A)LGR5(腸幹細胞)、(B)OLFM4(transit amplyfing cell; 一過性増殖細胞)、(C)MUC2(杯細胞)、(D)CHGA(腸内分泌細胞)、(E)KRT20(一般的な細胞分化)、(F)DEFA5(パネート細胞)、(G)スクラーゼイソマルターゼ、および(H)SLC2A2(腸細胞)の相対遺伝子発現。オルガノイドはそれぞれ、第1世代増殖培地(IntestiCult™ Organoid Growth Medium)、 第1世代分化培地(IntestiCult™ Organoid Differentiation Medium)、またはIntestiCult™ Plusで培養しました。遺伝子発現レベルはヒト小腸または結腸由来の市販mRNAのものと比較しました。
第1世代の培地と比較して、IntestiCult™ Plus Organoid Growth Mediumで増殖したオルガノイドは、分化細胞マーカーの発現増加、および幹細胞マーカーのわずかな発現低下を示しました。
* p < 0.05、** p < 0.01、*** p < 0.001、**** p < 0.0001、n = 3 ドナー、実験反復2回。
IntestiCult™ Plusは、堅牢な刷子縁とともに、杯細胞と腸内分泌細胞の維持をサポート
十二指腸、回腸および結腸オルガノイドの共焦点画像。オルガノイドは、「Start」段階で2日、「Balance」段階で5日培養してから収集、固定しました。
(A)杯細胞と分泌粘液はMUC2(緑)で染色しました。
(B)腸内分泌細胞は、汎腸内分泌細胞マーカーのCHGA(緑)で染色しました。
(C)オルガノイド上皮の頂端刷子縁は、villin(緑)で染色しました。
全細胞とその核は、EPCAM(赤)とDAPI(青)で染色しました。スケールバー = 100 μm。
IntestiCult™ Plusは、腸管幹細胞から特殊な細胞型への分化をサポート
特殊な細胞型の存在を示す腸オルガノイドの共焦点画像。オルガノイドは、「Start」段階で2日、「Balance」段階で5日培養してから収集、固定しました。
(A)抗菌剤分泌パネート細胞をリゾチーム(緑)で染色し、リゾチーム内の顆粒と、オルガノイド内の生理学的に適切な細胞内組織におけるタンパク質の存在を強調しました。
(B)ホルモン分泌腸内分泌細胞を汎腸内分泌細胞マーカーのCHGA(緑)で染色しました。
(C)セロトニン分泌腸クロム親和性細胞をCHGA(緑)およびセロトニン抗体5-HT(赤)で染色しました。
(D)杯細胞と分泌粘液をMUC2(緑)で染色しました。
(E)化学感覚タフト細胞をPOU2F3(緑)で染色しました。
すべての上皮細胞をEPCAM(赤または白)で、核をDAPI(青または青緑)で染色しました。スケールバー = 10 μm。
IntestiCult™ Plusで増殖したオルガノイドでは、杯細胞および腸内分泌細胞系統の割合が増加
十二指腸、回腸、および結腸由来の、ドナーと継代が一致した培養物を、第1世代の増殖培地(IntestiCult™ Organoid Growth Medium)または IntestiCult™ Plus で増殖させました。培養の7日目に、オルガノイドをシングルセルに解離し、シングルセルRNA配列解析(scRNAseq)用に調製しました。
各条件のUMAPプロットは、IntestiCult™ Plusで培養したオルガノイドでの杯細胞および腸内分泌細胞系統の増加を明らかにしました。さらに、腸細胞系統のより高い割合は、第1世代の増殖培地と比べてIntestiCult™ Plusでより高い成熟状態に達した一方、堅牢なLGR5+幹細胞集団は維持されました。
TA1/2 = 一過性増殖細胞、TA細胞は細胞周期の段階の違いに基づいて TA1 と TA2 に分類されます。
データ紹介:アプリケーション
IntestiCult™ Plusは、腫瘍組織由来の大腸がんオルガノイドのWnt非依存性増殖をサポート
(A, B)2名のドナー由来の大腸がん(CRC)オルガノイドの明視野画像。IntestiCult™ Plus Basal Mediumのみを使用し、Wnt非依存性条件下で増殖しました。スケールバー = 100 μm。
(C)KRT20または(D)MUC2を染色したオルガノイドの代表的な共焦点画像。明確な単層の円柱上皮を欠く高密度のオルガノイドです。MUC2は存在しますが、杯細胞やその他の特殊な細胞型は確認できません。スケールバー = 75 μm。
IntestiCult™ Plus で培養した腸オルガノイドはフォルスコリンに反応し、嚢胞性線維症オルガノイドはTrikafta® 処理でフォルスコリン感受性を回復
健康なドナーの(A)回腸または(C)結腸組織由来のオルガノイドをIntestiCult™ Plusで増殖させ、10 μM フォルスコリンまたはDMSOコントロールに100分間曝露した代表的な明視野画像。
(B)回腸または(D)結腸オルガノイドの10 μM フォルスコリンまたはDMSOコントロールへの曝露後の、T = 0分に対する表面積変化の定量。フォルスコリン誘発性の嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)活性化に応答して、オルガノイドが明らかに膨張しています。
(E)F508欠失を持つ嚢胞性線維症ドナー由来のオルガノイドをIntestiCult™ Plusで培養し、10μM フォルスコリンまたはDMSOコントロールに60分間曝露した代表的な明視野画像。フォルスコリン誘発性の膨張反応はありません。ただし、Trikafta® で処理するとフォルスコリン応答性のCFTR活性が部分的に回復します。
(F)E.のオルガノイドの、T = 0分に対する表面積変化の定量(n = 3、スケールバー = 1.2 mm)。
IntestiCult™ Plus で培養した腸オルガノイドではローダミン123 の取り込みが増加し、機能的な薬物輸送とバリア完全性を示す
十二指腸または回腸オルガノイドを96ウェルのOrganoid Culture Plate(ST-200-0562)に播種し、「Start」段階で2日培養し、続いて成熟のため「Blance」段階で5日培養しました。
(A)0.5 μM ローダミン123(Rh123)を十二指腸オルガノイドの増殖培地に添加すると、オルガノイド内腔に取り込まれました。このプロセスは、100 μM P-糖タンパク質阻害剤のベラパミルにより部分的に阻害される可能性があります(Rh123 + Ver)。IntestiCult™ Plusで培養した場合と比べて、第1世代の増殖培地(IntestiCult™ Organoid Growth Medium)で培養した嚢胞性オルガノイドでは、ローダミン123の蛍光のより拡散した取り込みが見られます。
(B)ローダミン123、FITC-デキストラン(FITC-dext)、または溶媒コントロール(DMSO)を添加して10分後以降、30分ごとにオルガノイド内腔内の平均蛍光強度を定量化しました。IntestiCult™ Plusで培養したオルガノイドには、第1世代増殖培地で培養した場合と比べて、より多量のローダミン123が取り込まれました。
(C、D)回腸オルガノイドでも、同様の実験結果が得られました。
ローダミン123取り込みの蛍光画像は、IncuCyte® SX5を使用して撮影、定量しました。スケールバー = 0.5 mm。
IntestiCult™ Plusで培養したオルガノイドは、一般的な薬剤に対し用量依存的に反応
十二指腸、回腸、および結腸(各2名のドナー)由来のオルガノイドをIntestiCult™ Plusで4日間増殖させ、最後の3日間は各薬剤を各濃度で処理しました(培地と薬剤は毎日交換)。生物学的反復はそれぞれ独立した培養で、同一プレート条件あたりn = 3の技術的反復を設けました。オルガノイドの生存率は、CellTiter-Glo® 3D(Promega)を使用して評価しました。培養物は、反復間およびドナー間で一貫した応答を示しました。この再現性によって、ゲフィチニブで観察されたような、薬物反応におけるドナー特異的な違いが検出できました。
腸オルガノイドのCYP3A4活性は、薬物処理応答による調節と正確な定量化が可能
十二指腸および回腸オルガノイドはシトクロムP450酵素 CYP3A4を強力に発現しますが、結腸オルガノイドはCYP3A4活性がはるかに低いです。オルガノイドにおけるCYP3A4発現は、(A)カルシトリオールまたは(B)リファンピシン処理後に増加させることができ、また(C)ケトコナゾール処理後にCYP3A4酵素活性を阻害できます。
CYP3A4活性は、P450-Glo™ CYP3A4 Assay System(Promega)を使用して相対光単位(RLU)として測定しました(n = 6)。
* p < 0.05、** p < 0.01、*** p < 0.001、**** p < 0.0001。