注目の製品情報
2021/05/17
神経を高度にモデル化するためのヒト脳領域特異的オルガノイド作製
- 用途別細胞培養
ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)から脳領域特異的なオルガノイドを生成し、オルガノイド同士または他の細胞型と共培養することによって集合体(assembloids)を作ることができます。これらは脳の発生過程、および神経炎症のような疾患を高度にモデリングするための、in vitro 神経モデルとして利用することが可能です。
本稿では脳領域特異的な背側・腹側前脳神経オルガノイドについて、効率良く生成するための製品とともにご紹介します。
脳領域特異的オルガノイドとAssembloids
ES/iPS細胞由来の3D神経培養は、ヒトの脳発達の主要な特徴と細胞構築を再現することが示されています。これらの脳オルガノイドモデルによって初めて、ヒト胎生初期における脳の発達を in vitro で研究することが可能になりました。しかし、これらの方法の多くで生成されるオルガノイドには、品質と一貫性に実験内および実験間でばらつきが見られ、研究ツールとして広く受容されることの妨げとなってきました。
ヒト多能性幹細胞由来の脳領域特異的オルガノイドを安定して生成するために、STEMCELL Technologies社では「STEMdiff™ Dorsal・Ventral Forebrain Organoid Differentiation Kit」を開発いたしました。本培地を用いることで、背側および腹側の前脳(背側新皮質と腹側終脳)を代表する均質なオルガノイドを再現性高く生成できるようになります。
ここに示した神経系分化製品を含む、「STEMdiff™」分化培地についてはこちら>>
背側および腹側前脳オルガノイドは、多電極アレイ(MEA)を使用して電気的活動を特徴づけることができ、さらに他の2Dまたは3D系と共培養することで集合体または「assembloids(アセンブロイド)」を形成することができます。アセンブロイドでは異なる脳領域や細胞がシナプスを介して相互接続しており、脳の発達と障害の複雑さについてのさらなる in vitro での研究を可能にします。
背側・腹側前脳神経オルガノイドによるモデル
背側および腹側前脳オルガノイドは、下図のように様々な集合体(脳アセンブロイド)を形成させることで、細胞間の複雑な相互作用と神経疾患のモデルとして使用できます。1
まず、オルガノイドを互いに融合させることで脳領域間の相互作用をモデル化できます。あるいは、発生シグナルを阻害または模倣するオーガナイザー類似構造をオルガノイドに埋め込むことによって、時空間的なパターン制御も可能になります。さらに、他のシングルセルとの共培養によって、複雑な細胞間相互作用をモデル化することもできます。例えば、アルツハイマー病などで重要になる神経免疫相互作用の研究にはミクログリア、血液脳関門(BBB)の研究には血管細胞、腫瘍の脳転移の研究にはがん細胞をそれぞれ共培養することができます。以上のような3次元培養系は、遺伝学、解剖学、および機能アッセイで解析することができます。
脳オルガノイドとアセンブロイドのポスターはこちら>>
STEMdiff™ Dorsal・Ventral Forebrain Organoid Differentiation Kit とは
「STEMdiff™ Dorsal・Ventral Forebrain Organoid Differentiation Kit」は、ヒト多能性幹細胞の分化用培地「STEMdiff™」シリーズに加わった、脳領域特異的オルガノイドを生成するため無血清培地です。それぞれ背側および腹側の前脳(背側新皮質と腹側終脳)を代表する、均質なオルガノイドを安定して生成することが可能になります。スタンフォード大学 Sergiu Paşcaらの方法 2(ウェビナー紹介も参照)に基づいて開発されたこれらの脳領域特異的オルガノイドは、発達中のヒト前脳に典型的な細胞組成と構造組織を備えた3次元 in vitro モデルです。
特長
- オルガノイド生成過程での融合を抑制
- 細胞株間/内で再現性の高いオルガノイド形態
- AggreWell™を使用し、オルガノイドをハイスループット(> 500個)に生成
- 埋め込み手順不要のマトリックスフリー培養
- 処理が容易な、均一サイズのオルガノイド
- 長期培養による神経毒性・神経変性モデリングが可能
- オルガノイドをモジュールとした共培養モデル(assembloids)を作製可能
オルガノイド作製の流れ
ヒトES/iPS細胞由来の前脳オルガノイドを43日で生成できるプロトコールです。初めの6日間で、AggreWell™ 800プレート内に胚葉体(EB)を形成します。次に浮遊培養に移行し、増殖とそれに続く前脳へのパターニングを誘導します。この後、長期維持培養とさらなる成熟も可能です。背側および腹側前脳の手順は基本的に同じで、違いは増殖時に加えるサプリメントのみです。
使用方法について詳しくは、以下ページから添付文書をご覧ください。
STEMdiff™ Dorsal Forebrain Organoid Differentiation Kit
STEMdiff™ Ventral Forebrain Organoid Differentiation Kit
データ紹介
オルガノイド同士の融合を回避
マトリックスフリー培養の課題であった、多くのオルガノイドが生成の早期に融合する現象(上段)を、培地組成の改良によって抑えました(下段)。
オルガノイド形態の均一性
6日目(最左列)に、AggreWell™800プレート内(上段)にサイズと形態が均一な胚葉体(EB)が形成されます(下段)。25~100日目(右4列)の背側(上段)または腹側(下段)前脳オルガノイドも均一な形態を示します。スケールバー:1 mm。
複数の細胞株にわたるサイズの再現性
背側(左)または腹側(右)前脳オルガノイドのサイズには、11の細胞株間で均一性が見られました。
背側・腹側前脳オルガノイドのアプリケーション例
MEAによる脳領域特異的な電気活動の測定
50日目の背側(上段)または腹側(下段)前脳オルガノイドを、0.1% polyethyleneimine in borate bufferと20 μg/mL Laminin-521でコーティングした電極アレイ(CytoView MEA 96)に播種し、週一回、4週にわたって測定しました。スケールバー:1 mm。
活動電位のラスタープロット(右2列)では、4週目の背側前脳オルガノイドで早期の回路バーストの増加が見られますが、腹側前脳オルガノイドでは見られません。
オルガノイド共培養によるアセンブロイド作製
前脳オルガノイドをもちいた共培養モデル(アセンブロイド)の概要を(A)に示します。30日目の背側および腹側の前脳オルガノイドは5日間で互いに融合し(A、Bの上段)、腹側前脳の内在性GFP発現細胞が背側前脳へと移動したことが確認できます(Bの赤・オレンジ枠内)。また、200日目の背側前脳オルガノイドを、STEMdiff™ Microglia Differentiation Kitで生成した250,000個のミクログリアと共培養すると(Aの下段)、1週間以内に典型的なミクログリア形態を示すIBA1+細胞がオルガノイドに取り込まれます(C)。
背側・腹側前脳オルガノイドの共培養(アセンブロイド作製)プロトコールはこちら:
How to Generate AssemBloids™ from hPSC-Derived Dorsal and Ventral Forebrain Organoid Co-Cultures
ウェビナー紹介
ヒトの発達と病気を研究するための脳オルガノイドおよびアセンブロイドの構築
Building Brain Organoids and Assembloids to Study Human Development and Disease
演者
Dr. Sergiu Paşca(Associate Professor at Stanford University)
内容
スタンフォード大学のPaşca博士が、ヒト多能性幹細胞由来の脳領域特異的オルガノイドやアセンブロイド(集合体)をどのように開発したか、そして脳発達と精神疾患にどのような洞察が得られたかを解説します。(収録時間62分、2020年10月公開)
(視聴にはSTEMCELL Technologies社ホームページへのログインが必要です。)
参考文献
- Pașca SP. The rise of three-dimensional human brain cultures. Nature. 2018 Jan 24;553(7689):437-445.
- Birey F, Andersen J, Makinson CD, Islam S, Wei W, Huber N, Fan HC, Metzler KRC, Panagiotakos G, Thom N, O'Rourke NA, Steinmetz LM, Bernstein JA, Hallmayer J, Huguenard JR, Paşca SP. Assembly of functionally integrated human forebrain spheroids. Nature. 2017 May 4;545(7652):54-59.