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ラーニングコーナー

2021/02/03

STEMdiff™、StemSpan™培地とサプリメントを用いたヒト多能性幹細胞からのNK細胞、T細胞の産生

  • 用途別細胞培養

背景

ナチュラルキラー(NK)細胞とT細胞は病原体や腫瘍に対して生体防御を担うリンパ球です。NK細胞は炎症性サイトカインを分泌し、がん細胞やウィルス感染細胞を殺傷することによって自然免疫に重要な役割を果たします。一方、獲得免疫においてT細胞は抗原特異的なT細胞受容体(TCR)によって幅広くターゲットを認識し、サイトカイン分泌や細胞障害を含めたエフェクター機能を発揮します。T細胞の重要な特徴はメモリー細胞を生成する事であり、これにより最初の免疫応答に比べてはるかに迅速な応答が可能となります。NK細胞とT細胞は末梢血から分離する事ができますが、末梢血はヒトの多能性幹細胞(pluripotent stem cell: PSC)の供給源でもあります。PSCをNK細胞やT細胞に分化させる事ができれば、がん患者のための獲得免疫療法の開発やこれらの細胞の基礎研究にとって有用なツールを得る事ができます。

STEMdiff™ NK Cell KitSTEMdiff™ T Cell Kitを使用することにより、ストローマ細胞や血清を排除したコンディションの下でPSCをNK細胞、T細胞へとそれぞれ分化させる事ができます。本稿ではそれぞれの分化プロトコールと必要物品、分化細胞の解析データをご紹介しています。

【概要】 PSCのNK細胞、T細胞への分化

STEMdiff™ NK Cell KitSTEMdiff™ T Cell Kitは、それぞれStemSpan™ NK Cell Generation KitStemSpan™ T Cell Generation KitにSTEMdiff™ Hematopoietic - EB Basal Reagent が付属した商品です。これらSTEMdiff™ キットを使用すれば、4つのステップを経る事によりPSCをNK細胞やT細胞へと分化させる事ができます。最初の2つのステップではSTEMdiff™ Hematopoietic - EB Basal Reagent を使ってPSCをCD34陽性造血前駆細胞へと分化させます(Figure 1)。まず、PSCをEB Formation MediumとEB Medium Aで3日間培養し、中胚葉分化を誘導します。この培養はAggreWell™を用いておこなうことにより、均一なサイズの胚様体(EB)の形成が可能となります。次の段階では細胞をEB Medium Bで9日間培養し、造血前駆細胞への分化を促進します。生成されたEBはその後単一細胞(シングルセル)に乖離させ、EasySep™による免疫磁気細胞分離をもちいてCD34陽性細胞を分離します。

3つ目の段階では、StemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Materialで予めコートしたプレートとStemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Medium を使用してCD34陽性細胞を14日間培養し、CD34陽性細胞の増殖とリンパ球前駆細胞(lymphoid progenitor: LP)への分化を誘導します。最終的に、LP細胞はCD56陽性細胞(Figure 3)やCD4+CD8+ダブルポジティブ(DP)T細胞(Figure 9)へと分化します。

NK細胞分化の場合には、LP細胞はコーティングなしのプレートと、小分子UM729(ST-72332、単品販売)を添加したStemSpan™ NK Cell Differentiation Mediumを用いて14日間培養し、さらにCD56陽性細胞へと分化を促進します。NK細胞の高い発生頻度と回収量を達成するために、この最終段階でUM729を使用する事は不可欠です。
DP T細胞分化の場合には、StemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Material で予めコートしたプレートとStemSpan™ T Cell Progenitor Maturation Mediumとを用いてLP細胞を14日間培養します。

これらのシステムでは、1個のCD34陽性細胞からおよそ210個のNK細胞、60個のDP T細胞が産生されます(様々な胚性幹細胞(ES細胞)・人工多能性幹細胞(iPS細胞)から得られた結果の平均的な値になります。Figure 5、11を参照ください)。

NK細胞、T細胞の産生になぜSTEMdiff™キットを使用するべきなのか?

一貫性ある品質:血清やストローマ細胞の存在しない培養系を用いる事により、これらに起因する結果の変動が生じません

均一性: AggreWell™を用いる事によりEB形成時の細胞塊が均一になり、結果のばらつきが軽減されます

回収量の多さ:PSC由来CD34陽性細胞1個あたり約210個のNK細胞、60個のDP T細胞が生成されます

高い利便性:ストロマ細胞ベースの培養では必要とされる余分な継代ステップがありません

以下では、それぞれの分化プロトコールと解析結果をステップごとにご紹介します。

【プロトコール I】 PSCのCD34陽性細胞への分化

本プロトコールは12日間の細胞培養によりPSCをCD34陽性造血前駆細胞へと分化させるためのものです。概要をFigure 1に示す通り、2つのステージ —中胚葉形成と造血系分化— から構成されています。

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Figure 1. STEMdiff™を用いた造血前駆細胞分化誘導プロトコール
PSCは回収し、乖離してシングルセル懸濁液としてEB Formation Medium (EB Medium A + 10 μM Y-27632) に懸濁し、AggreWell™ プレートに播種して500個の細胞塊を形成します。3日間の中胚葉形成(Mesoderm formation)ステージの後、培地をEB Medium Bに置換して造血細胞系列への分化を促進します。Day 5で、EBを浮遊細胞培養用プレート(Non-tissue culture treated plate)に移します。トータル培養日数が12日になったらEBを回収して細胞乖離し、EasySep™キットを用いたポジティブセレクションによりCD34陽性細胞を濃縮します。

I. PSCのCD34陽性細胞分化プロトコール

この作業行程はES細胞、iPS細胞用に最適化されています。作業内容全般については技術マニュアル(STEMdiff NK Cell マニュアル #10000007537 または STEMdiff T Cell マニュアル #10000007541)をご参照ください。

  1. EB Medium A (STEMdiff™ Hematopoietic - EB Basal Medium + STEMdiff™ Hematopoietic - EB Supplement A)を調整します。EB Formation MediumはEB Medium AにY-27632を終濃度10 μMとなるよう添加して作成します。
  2. AggreWell™400 plateを準備します:プレートをAnti-Adherence Rinsing Solutionでリンスした後、DMEM/F-12 with 15 mM HEPESで洗浄し、培養ボリュームの半量のEB Formation Mediumを添加します。
  3. PSCを回収し、ACCUTASE™を使用して細胞を乖離し、シングルセル懸濁液を作成します。
  4. PSC懸濁液をEB Formation Mediumで希釈して1.4 x 10⁶ cells/mL、ボリュームは2.5 mLとします。その細胞をステップ2で準備したAggreWell™ plateに播種します。
  5. Day 2に、EB Medium Aで半量培地交換をおこないます。
  6. EB Medium B (STEMdiff™ Hematopoietic - EB Basal Medium + STEMdiff™ Hematopoietic - EB Supplement B)を調整します.
  7. Day 3に、EB Medium Bで半量培地交換をおこないます。
  8. Day 5にEBを回収し、37 μm reversible strainer を使ってEB Medium Bで細胞塊を濾過して懸濁します。
  9. 懸濁したEBを浮遊細胞培養用プレート(non-tissue culture-treated plate)に移します。
  10. Day 7に、EB Medium Bを添加します。
  11. Day 10に、EB Medium Bで半量培地交換をおこないます。
  12. EBを回収し、Collagenase Type II とTrypLE™ Express (Thermo Fisher #12605010)を使ってシングルセル懸濁液になるまで細胞を乖離します。EasySep™ Human CD34 Positive Selection Kit IIを使ってCD34陽性細胞を分離します。
  13. NK細胞またはT細胞産生、それぞれに適したプロトコールへと進みます。NK細胞産生についてはII. NK細胞産生プロトコール、T細胞産生についてはIIIa. T細胞産生プロトコールをご参照ください。

【解析結果 I】 PSCから分化したCD34陽性細胞

PSCは12日間でCD34陽性造血前駆細胞へと分化します。CD34陽性細胞の発生頻度と回収量についてFigure 2に示しています。

FotoJet.jpg

Figure 2. PSCは12日間の培養後にCD34陽性造血前駆細胞へと分化します
ヒトES細胞およびiPS細胞は、Figure 1に示す12日間培養プロトコールに従いCD34陽性細胞へと分化誘導しました。細胞培養完了時に細胞を回収してシングルセル懸濁液へと乖離し、フローサイトメトリーでCD34とCD144の発現について解析しました。死細胞は散乱光プロファイルとDRAQ7™染色により排除しました。(A) Day 12におけるES細胞(H1)由来の代表的なフローサイトメトリー解析結果。(B)Day 12において、2つのES細胞株(H1、H9)、3つのiPS細胞株(WLS- 1C、 STiPS-M001、STiPS-F016)のCD34陽性細胞の平均発生頻度は31-42%でした。6-well AggreWell™ 400 plate1ウェルあたりのCD34陽性細胞の平均回収量は3.3~7.3 x 105個でした。データは平均値± SEM (n = 7 - 22)として示しています。

【プロトコール II】 NK細胞産生

本プロトコールは、28日間の培養でPSC由来CD34陽性細胞の増殖とCD56陽性NK細胞への分化を進めるためのものです。概要をFigure 3に示します。作業内容全般については商品の技術マニュアルをご参照ください。

Fig3.jpg

Figure 3. NK細胞産生プロトコール概要
PSC由来CD34陽性細胞をStemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Mediumに懸濁し、StemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Materialでコーティングしたプレートに播種します。Day 14に、リンパ球前駆細胞の段階にある細胞を回収してStemSpan™ NK Cell Differentiation Mediumに播き直し、さらにNK細胞分化を促進します。
注意:UM729はStemSpan™ NK Cell Differentiation Mediumにのみ添加して使用するものとし(ステップ5を参照)、StemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Mediumには添加しないでください。NK細胞は28日後に回収します。さらなる詳細については下記のプロトコールの各ステップでご確認ください。

II. NK細胞産生プロトコール

ご注意:細胞の回収量を最大にするためには、細胞の健康を維持することが重要です。細胞の健康は、培地の補充、交換に関する推奨作業スケジュールの順守に大きく依存します。

STEMdiff™ NK Cell KitSTEMdiff™ T Cell Kitがご利用いただけるアプリケーション

• PSCのNK細胞・Tリンパ球分化に関する研究
• 創薬における治療法候補の、NKまたはT細胞分化に対する効果と毒性の評価
• NK細胞またはT細胞を利用した細胞免疫療法開発に関連した研究
• NK細胞またはT細胞関連疾患研究のためのin vitroモデル開発
• PSCがNK細胞またはT細胞へと分化する前の段階での遺伝子編集

  1. 浮遊細胞培養用プレート(Non-tissue culture-treated plate)をStemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Materialでコーティングします。
  2. StemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Medium (StemSpan™ SFEM II + StemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Supplement)を作成します。
  3. CD34陽性細胞をStemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Mediumで5 x 10⁴ cells/mLに希釈し、コーティング済みのプレートに播種します。
  4. 半量培地交換とプレートへの播き直しについては技術マニュアル(STEMdiff NK Cell マニュアル #10000007537)の指示に従い、細胞を37℃で7日間インキュベートします。さらにNK細胞への分化を進める場合には、Day 14にリンパ球前駆細胞(CD5+CD7+細胞を含む。Figure 4参照)を回収します。
  5. StemSpan™ NK Cell Differentiation Medium (StemSpan™ SFEM II + StemSpan™ NK Cell Differentiation Supplement + UM729*)を調整します。
    *UM729は別途購入品です
  6. リンパ球前駆細胞をStemSpan™ NK Cell Differentiation Mediumで1 x 10⁵ cells/mLに希釈します。細胞を浮遊細胞培養用プレート(Non-coated tissue culture plate)に播種して37℃でインキュベートします。必要な半量培地交換については商品の技術マニュアルを参照してください。
  7. Day 28にCD56陽性NK細胞を含む培養細胞を回収し(Figure 5-7参照)、次のアッセイに使用します。

【解析結果 II】 分化したリンパ球およびNK細胞

PSC由来CD34陽性細胞を14日培養した後に発生するCD7+CD5+リンパ球前駆細胞(Figure 4A、4B)と、この細胞をさらに14日間培養している間に発生するCD56陽性NK細胞(Figure 5、6)はフローサイトメトリーにより同定します。フローサイトメトリーでは、NKp46、NKp44、NKp30、NKG2D、CD16など他のNK細胞特異的な表面マーカーの発現も測定することができます(Figure 5A、5B、6)。Figure 6で示した例では、KIRの異なる領域をそれぞれ認識する2種類の抗体(180704とHP-MA4)を用いてKIR分子の発現を検出しています。14日間、28日間の細胞培養で得られるCD7+CD5+リンパ球前駆細胞とCD56陽性NK細胞の平均的な発生頻度と回収量はそれぞれ、Figure 4CFigure 5Cに示しました。細胞障害アッセイ(Figure 7)と、脱顆粒およびサイトカイン産生評価(Figure 8)の結果から、PSC由来NK細胞と末梢血から分離されたNK細胞との機能的類似が示されています。

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Figure 4. PSC由来CD34陽性細胞は14日間の培養でCD5+CD7+リンパ球前駆細胞へと分化します
PSC由来CD34陽性細胞の培養にはStemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Materialで予めコーティングしたプレートを使用し、StemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Mediumで14日間培養します(Figure 3と8)。その後細胞は回収し、CD7とCD5の発現をフローサイトメトリーで解析しました。(A) ES細胞(H1)由来、および(B) iPS細胞(STiPS-M001)由来の細胞における代表的なフローサイトメトリー解析プロット図。(C) Day 14において生存しているCD7+CD5+リンパ球前駆細胞の平均的な発生頻度は38-54%、1個のPSC由来CD34陽性細胞から得られる平均的な細胞収量は12-40個となりました。データは平均値± SEM (n = 8 - 32)として示しています。

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Figure 5. PSC由来リンパ球前駆細胞は14日間の培養の後にCD56陽性NK細胞へと分化します
PSC由来リンパ球前駆細胞の培養にはコーティング未処理のプレートを使用し、StemSpan™ NK Cell Differentiation Medium中で14日間おこないました。細胞は回収し、フローサイトメトリーでCD56とCD16の発現をチェックしました。(A) ES細胞(H1)由来、および(B) iPS 細胞(STiPS-M001)由来の細胞における代表的なフローサイトメトリー解析プロットを示しています。(C) 28日後、PSC由来CD34陽性細胞から分化したCD56陽性NK細胞(生細胞)の平均発生頻度は79-94%でした。1個のCD34陽性細胞から産生されたCD56陽性細胞の平均収量は108-404となりました。データは平均値± SEM (n = 7 - 18)として示しています。

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Figure 6. 培養28日後におけるPSC由来CD56陽性NK細胞の細胞表面マーカー発現
PSC由来CD34陽性細胞をStemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Material で予めコートしたプレートを使用してStemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Medium中で14日間培養した後、コーティング無しのプレートを使用してStemSpan™ NK Cell Differentiation Medium中で14日間培養し、CD56陽性NK細胞を産生しました。細胞を回収し、フローサイトメトリーでCD56、NKp46、NKp44、NKp30、NKG2D、KIRの発現を解析しました。死細胞は散乱光プロファイルとDRAQ7™染色によって排除しました。データは (A-E) ES細胞 (H1)または (F-J) iPS細胞(STiPS-M001)に由来する代表的な例を示しています。

Fig7.jpg

Figure 7. 細胞培養で得られたNK細胞はK562細胞株に対して細胞障害活性を示します
28日間の培養によりPSC由来CD34陽性細胞から分化したCD56陽性NK細胞は、その後カルセインAMで標識したK562細胞と2.5:1の比率で混合して4時間共培養しました。ポジティブコントロール、ネガティブコントロールとして、末梢血(PB)から分離したNK細胞(PB NK細胞)と単球(PB由来単球)をそれぞれ標識K562細胞と共培養しました。共培養の前、凍結保存されたPB NK細胞は解凍してNK Cell Differentiation Supplement とStemSpan™ SFEM II 中で一晩培養しました。一方、PB由来単球はStemSpan™ SFEM II のみの培地で一晩培養しました。全細胞溶解時の蛍光(Maximum release)を計測するために、標識したK562細胞を1% Triton™ X-100で処理しました。培養上清について、培養4時間後にSpectraMax® マイクロプレートリーダー(励起485 nm/検出 530 nm)で死細胞から発せられる自家蛍光を測定して評価しました。%Specific Lysis(特異的溶解率)は次のように算出しました。[各ウェルの蛍光(test release) – バックグラウンド蛍光(spontaneous release)]/ [(全細胞溶解時の蛍光(maximum release) – バックグラウンドの蛍光(spontaneous release) ] x 100。PB由来NK細胞の特異的溶解率が62%であるのに対して、PSC由来NK細胞の特異的溶解率の平均は51-75%でした。グラフはES細胞(H1, H9)、iPS細胞(WLS-1C, STiPS-M001, STiPS-F016)由来のNK細胞についてのデータを示しています。データは平均値± SEM (n = 3 -7)として示しています。

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Figure 8. PSC由来CD56+ NK細胞では、K562標的細胞との共培養またはPMAとイオノマイシンでの刺激後に細胞表面のCD107a発現およびIFN-γ産生が誘導されます
STEMdiff™ NK Cell Kitを使用して得られたPSC由来CD56+ NK細胞は、刺激しないままにするか、phorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)とイオノマイシン、またはエフェクターと標的細胞の比率が1:1のK562細胞で刺激しました。CD107a抗体と刺激因子を各ウェルに加えました。1時間後、タンパク質の輸送を阻害するために、モネンシンとブレフェルジンAを各ウェルに添加しました。37℃で合計4時間のインキュベーションの後、細胞を洗浄し、Zombie NIR™ Fixable Viability KitおよびCD56で染色しました。次に、細胞を固定し、透過処理し、IFN-γを染色しました。細胞表面のCD107aおよび細胞内のIFN-γの発現は、フローサイトメトリーによって評価しました。図示した代表的なサンプルはCD56でゲートされています。
(A)非刺激、PMAとイオノマイシン刺激、およびK562刺激を受けたES細胞(H1)由来NK細胞。(B)非刺激、PMAとイオノマイシン刺激、およびK562刺激を受けたiPS細胞(STiPS-M001)由来NK細胞。(C)非刺激、PMAとイオノマイシン刺激、およびK562刺激を受けた末梢血(PB)NK細胞。このアッセイ前にPB NK細胞を解凍し、IL-2を添加したStemSpan™ SFEM IIで一晩培養しました。
(D)CD107aおよび(E)IFN-γのNK細胞による発現結果のまとめ。PSC由来CD56+NK細胞は、刺激によってCD107aの表面発現(平均範囲:PMAとイオノマイシンの刺激で82〜96%、K562刺激で68〜90%)で示されるように脱顆粒し、IFN-γを分泌することができます(PMAとイオノマイシンおよびK562刺激に対して、それぞれ54-76%および18-39%)。データは平均±SEMとして示しています(n = 2-4)。

【プロトコール IIIa】 T細胞産生

本プロトコールは、28日間の培養でPSC由来CD34陽性細胞の増殖とCD4CD8 DP T細胞への分化を進めるためのものです。概要をFigure 9に示します。得られたDP T細胞は、さらにCD8シングルポジティブ(SP)細胞へと成熟させることが可能です(Figure 10)。作業内容全般については商品の技術マニュアルをご参照ください。

STEMdiffTM、StemSpanTM培地とサプリメントを用いたヒト多能性幹細胞からのNK細胞8.jpg

Figure 9. T細胞産生プロトコール概要
PSC由来CD34陽性細胞はStemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Mediumに懸濁し、予めStemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Materialでコーティングしたプレートに播種します。 Day 14に、リンパ球前駆細胞の段階にある細胞を回収してStemSpan™ T Cell Progenitor Maturation Mediumに播き直し、CD4CD8 DP T細胞への分化をさらに進めます。28日後にDP細胞を回収します。さらなる詳細については下記プロトコールの各ステップを確認してください。

IIIa. T細胞産生プロトコール

ご注意:細胞の回収を最適化するためには、細胞の健康を維持することが重要です。細胞の健康は、培地の補充、交換に関する推奨作業スケジュールの順守に大きく依存します。

この作業行程はES細胞、iPS細胞用に最適化されています。作業内容全般については技術マニュアル(STEMdiff T Cell マニュアル #10000007541)をご参照ください。

  1. 浮遊細胞培養用プレート(Non-tissue culture-treated plate)をStemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Materialでコーティングします。
  2. StemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Medium (StemSpan™ SFEM II + StemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Supplement)を調整します。
  3. CD34陽性細胞をStemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Mediumで5 x 10⁴ cells/mLに希釈し、コート済みのプレートに播種します。
  4. 37℃で7日間細胞をインキュベートします。この間必要となる半量培地交換とDay 7におこなうプレート播き直しについては技術マニュアルに従っておこなってください。Day 14には、DP T細胞への分化を進めるためにリンパ球前駆細胞を回収します(Figure 4参照)。
  5. StemSpan™ T Cell Progenitor Maturation Medium(StemSpan™ SFEM II + StemSpan™ T Cell Progenitor Maturation Supplement)と調整します。
  6. リンパ球前駆細胞をStemSpan™ T Cell Progenitor Maturation Mediumで0.5 - 1 x 10⁶ cells/mLに希釈し、新しくコーティングしたプレート(ステップ 1参照)に播いて37℃でインキュベートします。必要な半量培地交換についてはマニュアルの指示に従ってください(この段階で蛍光活性化セルソーティング(FACS)により死細胞を除去するとDP T細胞の発生頻度と回収量を向上できる可能性があります)。
  7. Day 28では、この後の解析に使用する場合はDP T細胞を含む培養細胞を回収し(Figure 9と11参照)、さらにCD8 SP T細胞に分化させる場合にはオプションの培養延長プロトコール(Figure 10と12参照)に従ってください。

【プロトコール IIIb】 CD8 SP T細胞への成熟

DP T細胞をCD8 SP細胞へと成熟させるための、オプションの培養延長プロトコールをFigure 10に示します。ここではSTEMdiff™ T Cell Kit の構成品で調製するStemSpan™ T Cell Progenitor Maturation Mediumの他に、ImmunoCult™ Human CD3/CD28/CD2 T Cell ActivatorまたはImmunoCult™ Human CD3/CD28 T Cell Activatorと、Human Recombinant IL-15を組み合わせて使用する必要があります。

STEMdiffTM、StemSpanTM培地とサプリメントを用いたヒト多能性幹細胞からのNK細胞9.jpg

Figure 10. オプションとしてのCD8 SP T細胞成熟プロトコール
DP T細胞はImmunoCult™ T Cell Activatorを添加したCD8 SP T Cell Maturation Mediumに混合し、StemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Materialでコーティングしたプレートに播種します。CD8 SPT細胞はDay 7に回収できます。

IIIb. CD8 SP T細胞の成熟プロトコール (オプション)

  1. プレートを新しくコーティングします(IIIaのステップ1を参照してください)。
  2. 完全培地:Complete CD8 SP T Cell Maturation Medium (StemSpan™ SFEM II + StemSpan™ T Cell Progenitor Maturation Supplement + IL-15) を調整します。
  3. ImmunoCult™ T Cell Activatorを推奨濃度の半分の濃度で添加します。
  4. 細胞を、ImmunoCult™ T Cell Activatorを添加したComplete CD8 SP T Cell Maturation Mediumに混合して1 x 10⁶ cells/mLに希釈し、コーティング済みのプレートに播種します。細胞は37℃でインキュベートします。
  5. 培養3-4日後、ImmunoCult™ T Cell Activatorを添加していないCD8 SP T Cell Maturation Mediumを添加します。
  6. 37℃でインキュベートし、7日後に細胞を回収します。

【解析結果 III】 分化したT細胞

PSC由来CD34陽性細胞を14日間培養することにより発生したCD7+CD5+リンパ球前駆細胞(Figure 4)、次の14日間の培養より発生したDP T細胞(Figure 9)、その後の培養延長プロトコール (オプション)によって生じたCD8 SP T細胞(Figure 10)はフローサイトメトリー解析により同定します。CD3, CD4, CD8α, CD8β, TCRαβ, CD45RA, CD27などの細胞表面マーカーに対する抗体で染色をすれば、T細胞サブセットについての解析も可能です(Figure 11、12)。図で示した代表的なフローサイトメトリープロットでは、死細胞を散乱光プロファイルとDRAQ7™染色により除去しています。
CD8+ SP T細胞は、刺激を加えることにより脱顆粒とサイトカイン産生の能力を解析しました(Figure 13) 。

t-cell-Fig-6-2.jpg

Figure 11. ヒトPSC由来CD34陽性細胞から28日間の培養後に産生されたCD4CD8 DP T細胞
Figure 9に示されるプロトコール により、PSC由来CD34陽性細胞からDP T細胞に分化しました。細胞は回収し、フローサイトメトリーによりCD3、CD4、CD8、TCRαβの発現を解析しました。(A, B) ES細胞(H1)由来、(C, D) iPS細胞(STiPS-F016)由来の代表的なフローサイトメトリープロットを示します。(E)Day 28において生存するCD4CD8 DP T細胞の平均発生頻度は23-58%、1個のPSC由来CD34陽性細胞から得られるCD4CD8 DP T細胞の平均回収量は12-108でした。(F) DP T細胞上に発現するCD3+TCRαβの平均発現頻度は11-38%でした。データは平均値± SEM (n = 6 -17)として示しています。

t-cell-Fig-7.jpg

Figure 12. PSC由来CD4CD8 DP T細胞はCD8 SP T細胞へと成熟します
PSC由来CD34陽性細胞は初めの28日間の培養の間にDP T細胞へと分化し、その後さらに7日間の成熟プロトコールによってCD8 SP T細胞へと成熟します(Figure 10)。細胞は回収し、フローサイトメトリーにより次の分子の発現を測定します:(A, D)CD3とTCRαβ、(B, E)CD4とCD8 (CD3+ TCRαβ+の細胞集団にゲート)、(C, F) CD8αとCD8β (CD8 SPにゲート)。(A, B,C)ES細胞(H1)由来、および(D, E, F)iPS細胞(STiPS-F016)由来の代表的な結果を示しています。(G)CD3+TCRαβ+CD4-CD8+ (CD8 SP) T細胞の平均発生頻度は3-28 %でした。データは平均値± SEM (n = 2 - 9)として示しています。

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Figure 13. PSC由来CD8+ SP T細胞では、活性化マーカーCD25およびCD69の発現、脱顆粒、IFN-γ産生を誘導することができます
PSC由来CD34+細胞を28日間の培養でDP T細胞に分化し、その後、7日間の延長培養プロトコルによってCD8+ SP T細胞に成熟しました(Figure 9、10)。CD8+ SP T細胞は、蛍光活性化セルソーティングによって分取し、IL-2を添加したImmunoCult™-XF T Cell Expansion Mediumで7日間培養し、ImmunoCult™ Human CD3/CD28 T Cell Activatorで刺激しました。細胞を回収し、フローサイトメトリーで(A、D)CD25およびCD69の発現を分析しました。脱顆粒とサイトカイン産生を評価するため、一部の細胞は回収の4時間前にphorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)とイオノマイシンで刺激しました。1時間後、タンパク質の輸送を阻害するために、モネンシンとブレフェルジンAを各ウェルに添加しました。コントロール(未刺激; 黒色ヒストグラム)とPMA +イオノマイシン刺激細胞(橙色ヒストグラム)について、脱顆粒を示す(C、F)CD107a(リソソーム関連膜タンパク質1またはLAMP-1)の表面発現、および(B、E)IFN-γの細胞内発現(CD8+ SPでゲート)をフローサイトメトリーで追加分析しました。(A、B、C)ES細胞(H1)および(D、E、F)iPS細胞(STiPS-F016)に由来する代表的な結果を示しています。

商品情報

STEMdiff NK Cell Kitと STEMdiff T Cell Kit の構成品

商品名 商品コード(サイズ) 商品名 商品コード(サイズ)
STEMdiff™ NK Cell Kit ST-100-0170
(1 Kit)
STEMdiff™ T Cell Kit ST-100-0194
(1 Kit)
キット構成品 構成品番号(サイズ) キット構成品 構成品番号(サイズ)
STEMdiff™ Hematopoietic - EB Basal Medium 100-0171
(120 mL)
STEMdiff™ Hematopoietic - EB Basal Medium 100-0171
(120 mL)
STEMdiff™ Hematopoietic - EB Supplement A 100-0172
(265 μL)
STEMdiff™ Hematopoietic - EB Supplement A 100-0172
(265 μL)
STEMdiff™ Hematopoietic - EB Supplement B 100-0173
(7 mL)
STEMdiff™ Hematopoietic - EB Supplement B 100-0173
(7 mL)
StemSpan™ SFEM II ST-09605
(100 mL)*
StemSpan™ SFEM II ST-09605
(2 x 100 mL)*
StemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Supplement (10X) ST-09915
(5 mL)
StemSpan™ Lymphoid Progenitor Expansion Supplement (10X) ST-09915
(5 mL)
StemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Material (100X) ST-09925
(250 μL)
StemSpan™ Lymphoid Differentiation Coating Material (100X) ST-09925
(2 x 250 μL)
StemSpan™ NK Cell Differentiation Supplement (100X) 09950
(500 μL)
StemSpan™ T Cell Progenitor Maturation Supplement (10X) 09930
(12.5 mL)

*StemSpan™ SFEM II (ST-09655, 500 mL)もご使用可能です。

ご注意:低分子化合物UM729(ST-72332)は、STEMdiff™ NK Cell Kitを用いたNK細胞分化を最適化するために必要です。UM729はキットには付属していないため、別途ご購入頂く必要があります。詳細についてはキットの商品情報シート(PIS)をご参照ください。

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