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研究者の声

2021/04/14

ChIP-seq法に代わる新しい研究手法CUT&TagでDynabeadsを使用 研究者の声【30】

本記事で紹介した手法がSpringerの書籍に掲載されました。

Book cover
CUT&Tag Using "Stress-Free" Con A-Conjugated Dynabeads®
Chromosome Analysis: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology, 2519) pp 141-153

ChIP-seq法に代わるタンパク質-クロマチン相互作用の研究手法CUT&Tag(Cleavage Under Targets and Tagmentation)法でDynabeads磁気ビーズをお使いいただきました。
ChIP-seqのような従来法では、多くの細胞数を必要とする、コストがかかる、高いバックグラウンドなどの課題がありました。
今回はそれらの課題を解決するCUT&Tagの原理やDynabeads磁気ビーズを使った利点をご紹介します。

研究者紹介

researchers30-members.png

藤原 靖浩 先生

東京大学 定量生命科学研究所
病態発生制御研究分野 助教
研究室のホームページ

(写真:前列向かって右から藤原先生、牧野先生、岡田先生)

論文

研究内容

生殖細胞は自らの遺伝情報を次世代に継承するという命題の下、その形態や核内環境をダイナミックに変化させながら成熟します。例えば精子の核は長径がわずか5ミクロンで、内部はヒストンが除去されてクロマチンが高度に凝集した結果、転写翻訳といった核内イベントはほぼ完全に停止していると考えられています。しかし近年、精子の中にはヒストンとRNAが少なからず存在することが明らかになり、これらが受精や遺伝情報伝達に何らかの役割を有する可能性が示唆されています。さらに最近、オスの一過性のストレスがエピゲノムマークとなって子孫に遺伝することが実験的に証明されたことから、精子が自分のDNA以外の因子を次世代に受け渡している可能性が高く、益々関心が高まっています。

私たちの研究室では、生殖細胞のクロマチン動態に着目し、それらが細胞増殖や分化・受精にどのような機能を有するかについて研究を進めています。具体的には①精子幹細胞の幹細胞性維持に関わるクロマチン因子の同定と解析、②精子形成におけるヒストンバリアントの役割の解析、③精子残存ヒストンの機能・生化学的構造解析、について解析を行っています。

また、最近では熊本大学発生医学研究所の石黒先生と共に、精子・卵子の形成に必要な減数分裂の過程で父方由来、母方由来の染色体がマッチングして遺伝情報の交換を行う「相同染色体の対合」において監視役を果たす因子を呼び込む仕組みを明らかにしました。

実験内容・結果

CUT&Tagでは、まずConcanavalin A(Con A)がコートされた磁気ビーズを用いて細胞をチューブ側面に保持します。その後、シーケンス用アダプターが導入されたプロテインA結合Tn5トランスポゾーム酵素(pA-Tn5)を用いたタグメンテーション反応を用いてDNA結合タンパク質の配列特異的にDNAを切断すると同時にNGSアダプター配列を付加します。このようにして、ワンステップでクロマチンの切断およびライブラリ生成を行うことができます。CUT&Tagではソニケーション処理後の組織ではなく、intactな細胞をサンプルとして使用するのでシングルセル実験にも適用可能です。 最近ではCUT&Tag法のためのConcanavalin Aがコートされた磁気ビーズも販売されています。しかしながら、これらのビーズは分散性に乏しく、アグリゲーションを起こしてしまうという欠点がありました。

今回、これらを解消する代替法としてStreptavidinがコートされたDynabeads磁気ビーズとビオチン化Concanavalin Aを用いた手法を見出しました。 Dynabeads™ MyOne Streptavidin T1を使った方法では既存製品と比べてアグリゲーションが劇的に軽減され、より安定した抗体や酵素の反応、洗浄の効率が増したと予想されます。また、H3K4me3のピークがより濃縮されていました。


図1.CUT&Tagの概要

CUT&TAG図.png
  • 細胞を透過処理後、Concanavalin Aでコートされた磁気ビーズを用いて単離する
  • 標的に特異的な一次抗体と単離した細胞をインキュベートし、洗浄する
  • 二次抗体とインキュベートする
  • プロテインA とNGSアダプターが連結されたTn5トランスポゾーム酵素の融合タンパク質とMg2+存在下でインキュベートする
  • クロマチンは標的タンパク質の結合部位の近傍で切断され、アダプター配列が付加されたDNA断片が得られます

図2.Dynabeads(MyOne Streptavidin T1)と既存製品の比較

Dynabeads(MyOne T1).png
researcher30.png

Dynabeads磁気ビーズの活用事例

当研究室では、主にマウスの生殖細胞を用いて様々なヒストン修飾や転写因子のエピゲノム解析を行っています。エピジェネティクスの研究分野で広く用いられているChIP-seq法と併用して、近年はCUT&Tag法も導入しています。CUT&Tagを立ち上げる際には、Daudi培養細胞株を用いてH3K4me3や転写因子のエピゲノム解析を行いました。また、1×105程度の比較的少ない細胞数で実験を行えるというCUT&Tagのメリットを生かして、現在研究対象としている減数分裂前期パキテン期の精母細胞をFACSにより分画、Dynabeads MyOne Streptavidin T1を用いてキャプチャーしCUT&Tagを行いました。これまでに、H3K4me3などのヒストン修飾やMYBL1という転写因子、さらに新生RNAがDNAにハイブリダイズした特徴的な3本鎖核酸構造であるR-loopの検出を行いました。一般的にR-loopの検出には、S9.6抗体を用いてChIP-seq法と原理的に近いDRIP-seqという手法が用いられていますが、DRIP-seqでは極めて高いバックグラウンドシグナルが検出されてしまいます。しかし、Dynabeadsを用いたCUT&Tagの場合、バックグラウンドは極めて低く抑えられ、比較的高いS/N比でR-loopピークの検出が可能となりました。得られたR-loopピークや、H3K4me3や転写因子の分布を解析することで、パキテン期の転写制御機構の解明を目指しています。

Dynabeads磁気ビーズを使用した感想

CUT&Tagを始めた当初は、Henikoff研の論文で使用されていたConcanavalin AでコートされたBioMagという磁気ビーズを使用していました。しかし、BioMagの場合、アグリゲーションが起こる問題が頻発しました。ビーズのアグリゲーションは、細胞の脱落を引き起こしかねない無理なペッティング操作や抗体や酵素の反応不良の原因になることが懸念されます。そこで、Dynabeads™ Streptavidin Trial Kitに含まれている性質の異なる4種類のビーズを使って、ビオチン化Concanavalin Aの吸着率や細胞の保持能力、そしてアグリゲーションがどの程度軽減されるかを検証しました。その結果、CUT&Tagを行う場合、Concanavalin AをコンジュゲートしたDynabeads MyOne Streptavidin T1が総合的に優れアグリゲーションが起こりにくいビーズだということが分かりました。さらにBioMagとDynabeads MyOne Streptavidin T1を使い、培養細胞のH3K4me3のCUT&Tag−シーケンスによる比較解析を行ったところ、Dynabeads MyOne Streptavidin T1を使用したサンプルの方がBioMagサンプルよりも多くのピークが検出されました。Dynabeads MyOne Streptavidin T1ビーズが溶液中に均等に混ざりやすいことで、抗体や酵素が効率よく反応した結果だと思いますが、Dynabeads MyOne Streptavidin T1に特異的なピークはバックグラウンドである可能性も考えられます。十分な検証のために、Dynabeadsを使ったCUT&Tagを今後もどんどん行っていく予定です。初期の条件検討の段階で、細胞の種類が変わっても比較的安定してDynabeadsが細胞を保持してくれ、幅広い実験にも安心して応用できると感じました。

今後の展望

CUT&Tag法は、ChIP-seq法と比較して必要とする細胞数が少ないだけでなく、バックグラウンドのシグナルが低くS/N比の高いピーク検出ができるのが特徴です。Cross-linkingやソニケーションの条件検討も必要なく、近年シーケンス費用もますます安価になってきているので、比較的導入しやすい実験手法です。また、近年FACSなどによる細胞の分画方法の技術がどんどん進歩していて、これまでChIP-seq法では解析の難しかった生体内のマイナー細胞の実験にも応用できるようになると期待しています。私が専門にしている減数分裂の研究では、特定の時期の細胞を高い純度で分画しようとすると多くの細胞を得ることが非常に難しくなるため、比較的少ない細胞数で実験できるDynabeads磁気ビーズを用いたCUT&Tagによるエピゲノム解析は今後ますます期待される手法の一つになると思います。また、CUT&Tagはcross-linkingやソニケーションが必要なく、クロマチンやDNAへの結合力が弱い因子をnativeな状態で検出できる可能性も秘めています。私が現在解析を進めているR-loopに結合する因子もそうした性質を持つと考えられるため、CUT&Tagをベースとした新たな解析手法が開発されることで、R-loopの理解が深まっていくと思います。

共著者(弊社技術グループ・丹野)より

エピジェネティクス研究の最先端のテクニックであるCUT&Tagにおいて、磁気ビーズが凝集してしまうという問題が生じていることを、昨年藤原先生よりご相談いただきました。
ダマになりにくい・非特異吸着が少ないなどの特長を備えた、扱い易い磁気粒子であるDynabeads磁気ビーズを用いることで、問題が解決できるのではないかと考えご提案いたしました。
論文が発表されるまでに行われた藤原先生による詳細な条件検討の過程は、弊社にとっても大変勉強になりました。
著者に加えていただき大変恐縮しております。
本手法がエピジェネティクス研究の進展のお力になれましたら、これ以上の喜びはございません。

ご利用いただいた試薬・器具

商品コード 商品名 梱包単位
DB65801 Dynabeads Streptavidin Trial Kit 1 mL x 4
DB65601 Dynabeads MyOne Streptavidin T1 2 mL
DB12321 DynaMag-2 1個

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