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研究者の声

2021/11/15

磁気ビーズを用いた腫瘍細胞濃縮法の基礎的検討 研究者の声【33】

  • 細胞分離

細胞診検体をがんゲノム検査に用いる場合の有用性を探るために

現在、病理細胞診断はがんか否かの診断にとどまらず、どの遺伝子が異常を起こしたがんで、どの治療薬に効果があるか予測するところまでが要求されるようになっている。この治療薬効果予測にはゲノム病理診断が行われている。ゲノム検査に用いられる病理標本には現在、主に組織検体が用いられているが、場合によっては検査材料として細胞診材料の方が有利な場合がある。細胞診検体をがんゲノム等の分子病理学検査に用いる利点としてはまずDNAの分解が少なく良質のDNAがとれることがあげられる。さらに大きな点は細胞浮遊液であるため磁気ビーズ等を用いて目的の細胞の選択ができることである。組織標本ではときとして腫瘍の含有率が低く、偽陰性を招く可能性がある。このことに対し細胞検体を用い磁気ビーズにより腫瘍細胞比率を上げれば偽陰性を回避することができる。今回、磁気ビーズ(EasySep™ Human EpCAM Positive Selection Kit II)を用いて腫瘍細胞比率上げることができるかEGFR遺伝子をターゲットに基礎検討を行った。

(池田 聡:日本臨床検査医学会誌 第69巻第10号より引用)

研究者紹介

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池田 聡 先生

総合病院 土浦協同病院

方法および材料

対象にはEGFR遺伝子変異L858R陽性培養細胞NCL-H1975(ヒト肺腺癌由来, ATCC)を著者の白血球で希釈した模擬検体を使用した。白血球に対する培養細胞濃度を5%、0.5%、0.05%とする3本の希釈検体系列を作製し95%エタノールで固定した。それぞれの検体の半量をとり半分はそのままEGFR遺伝子検査を、もう半分については、EasySep Human EpCAM Positive Selection KitⅡを用いて上皮細胞比率を高めた。そして、その分離後の検体も同様にEGFR遺伝子検査を行った。EGFR遺伝子変異の検出はPNA-LNA PCR Clamp法を用いて行った。

結果

調整したサンプルについてその状態を確認するために一部をスライドガラスに展開し、サイトケラチンを用いた免疫染色を行った。染色の結果、サイトケラチン免疫染色において処理後では処理前に比べ腫瘍細胞に比率が高くなっていることが確認された。遺伝子変異検査の結果、すべてのサンプルでEGFR変異が示された。Ct値やサンプルDNA量から割り出した単位DNA当たりのL858Rコピー数は表に示される通りであり、細胞分離前に比べ分離後のコピー数は最大4.6倍に濃縮されたことがわかった。

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EasySep™ Human EpCAM Positeve Selection Kit IIで濃縮前(左)と濃縮後(右)の上皮細胞

 

結論

がんゲノム検査に用いる検体の質、特に腫瘍細胞含有率はその検査が適切に行われるか否かの重要なファクターである。進歩した分子標的治療薬が次々と承認されている現在、患者さんにその適切な薬を選択できるためのこの検査では偽陰性は極力避けなければならない。

検討の結果、単位DNA当たりのL858Rコピー数は分離前に比べ分離後のコピー数は最大4.6まで濃縮され、磁気ビーズを用いて実際に腫瘍細胞含有率を上げることが証明できた(表1)。このビーズを用いた精製技術は細胞浮遊液である細胞診検体では容易だが、組織標本では腫瘍細胞のみを選択的に集めることは相当な労力を要する。この応用により細胞診検体のゲノム検査材料としての重要性が一段と高まるものと思われ、がんゲノム検査に発展により一人でも多くの患者さんが適切な治療が受けられるよう期待する。

表1.EGFR遺伝子変異のコピー数の比較

腫瘍細胞の割合
5% 0.5% 0.05%
濃縮前 1000 160 90
濃縮後 2100 732 312
濃縮倍率 2.1 4.6 3.5

 

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