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研究者の声

2021/02/09

ラット初代培養皮質神経細胞の神経活動及び薬物応答性に与える培地条件の検討 研究者の声【29】

  • 用途別細胞培養

鈴木らがヒト iPS 細胞由来神経細胞の分散培養系で微小電極アレイ (MEA) を用いた神経細胞活動電位記録の手法を発表して以来1)、この手法が薬物誘発痙攣評価に利活用できるのではないかと注目されている。この MEA を用いた薬物誘発痙攣評価法の確立に向けて、国内では"ヒト iPS 細胞応用安全性コンソーシアム (CSAHi)" において、米国では Health and Environmental Science Institute (HESI) の The Translational Biomarkers of Neurotoxicity (NeuTox) Committee による MEA Subteam においてコンソーシアムによる共同研究が展開されている。鈴木らは、スパイクや痙攣徴候とされる空間的に離れた神経細胞の同期バーストフェノタイプ2)が出現するまでの培養期間が、ラットアストロサイトとの共培養、あるいはラットアストロサイト培養液中の可溶化因子で短縮できることを示している1)。また、コンソーシアムでの共同研究では、培地組成の異なる培地を使用した施設間で、定常状態での同期バースト頻度に差がある結果が得られている。これらのことは、同期バーストが出現するための神経細胞同士のシナプス形成が、培地組成によって大きく影響されることを示唆している。 BrainPhys Neuronal Medium は、Bardy らの報告2)に基づいて開発された脳の生理条件を再現した無血清培地であり、げっ歯類の初代培養神経細胞の播種および培養に適した BrainPhys Primary Neuron Kit が準備されている。そこで我々は、初代培養神経細胞での MEA 試験に本キットを用いた場合の神経活動発現の特徴を調べた。

研究者紹介

小島 敦子 様1,2, 小田原 あおい 様1,田辺 岳海 様1,2,宮本 憲優 様1
1 エーザイ株式会社,高度バイオシグナル安全性評価部
2 株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社,事業統括部つくば支店

方法および材料

動物実験は、エーザイ株式会社筑波研究所の実験動物委員会に実験計画を申請し許可を得た後、「エーザイ動物実験指針」及び日本実験動物学会の策定した「動物実験に関する指針」に従い行った。 妊娠18日目のWistarラット (日本チャールズリバー社) 胎仔から摘出した大脳皮質細胞を、CytoView MEA 48 Plate (Axion BioSystems) に8.7×10⁴ cells/well、 MED-Q2439M (Alpha MED Scientific Inc.) に4.55 x 10⁴ cells/well となるよう、BrainPhys Primary Neuron Kit (STEMCELL Technologies) 中の 2% NeuroCult™ SM1 Neuronal Supplement を添加した NeuroCult™ Neuronal Plating Medium を用いて播種し、37℃、CO2インキュベータ下で培養した。培養5日目に、同 Kit 中の 2% NeuroCult™ SM1 Neuronal Supplement を添加した BrainPhys™ Neuronal Medium で半量交換を行い、以降週2回培地の半量交換を行った。一方、2% B-2 7Supplement (Thermo Fisher Scientific) 及び 1% GlutaMAX-I (Thermo Fisher Scientific) を添加した Neurobasal (Thermo Fisher Scientific) 培地で同プレートに播種した細胞は、播種以降週2回培地の半量交換を行った。播種後培養19日目に、薬物添加実験を行った。痙攣誘発陽性薬に 4-Aminopiridine (Sigma, 275875)、Picrotoxin (Sigma, P1675)、Strychnine (Wako, 195-11151) を、陰性薬に Acetaminophen (Sigma, A7085) を、バックグラウンドコントロールとして溶媒である DMSO (Sigma、D2650) を用いて神経活動に対する用量依存性を電気生理的に確認した。Maestro Pro (Axion BioSystems) に MEA Plate を設置後20分間静置して安定化させ、累積法により薬物添加を行った。図1に示したように、各濃度での薬物添加5分後から10分間細胞外電位を記録した。データ解析は、AxIS, Neural Metric Tool と Metric Plotting Tool (Axion BioSystems) 及び Spotfire (PerkinElmer) を用いて行った。

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図1. 累積法による薬物添加及び細胞外電位記録プロトコル

結果

  1. 定常状態における自発活動パターン
    図2A及び2Bは、1ウェル中に存在する16個の電極を縦方向に並列に並べ、薬物を処置する前の定常状態でのスパイク率を180秒間示したラスタープロットと、16個の電極のスパイク率の総和である Population Histogram を示した図である (2A:Neurobasal Medium、2B:BrainPhys Primary Neuron Kit)。培養14日目に自発活動を計測したところ、薬物による増減で痙攣徴候の有無を判定する指標となる同期バーストが観察された。中でも、BrainPhys Primary Neuron Kit で培養したサンプルは Neurobasal Medium サンプルに比べ優位に、総発火数 (図2C)、同期バーストの頻度 (図2D) およびバースト内の発火数 (図2E) が高く、電気活動が活性化していることがわかった。
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    図2. 培養14日目のラット初代培養皮質細胞の定常状態での自発活動のラスタープロット及び Population Histgram  (A) Neurobasal Medium, (B) BrainPhys Primary Neuron Kit, (C) 10分間の総発火数, (D)同期バースト発火数, (E) 同期バースト内の発火数の平均値

  2. 溶媒 DMSO の影響及び痙攣陽性薬の応答検知
    図3は、Neurobasal 又は BrainPhys で培養したニューロンの、Picrotoxin と Acetaminophen の応答を、溶媒である DMSO の同じ累積濃度に合わせて総発火数をプロットした図である。Neurobasal で培養した場合、DMSO の累積でも総発火数が上昇したが、BrainPhys で培養したニューロンは、DMSO による影響が Neurobasal で培養した時より小さく、ばらつきも少なかった。痙攣陰性薬の Acetaminophen の応答は、DMSO によるバックグラウンドの応答にほぼ重なり、痙攣陽性薬の Picrotoxin (図3) 及び 4-Aminopyridine (図4) の応答が際立った。また、Strychnine の応答は、Neurobasal コンディションでは、DMSO と痙攣陰性薬の Acetaminophen と差を示すことが出来なかったが、BrainPhys 条件では DMSO と Acetaminophen とは異なり用量変化をはっきりと捉えることが出来た。
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    図3. 培養19日目のラット初代培養皮質細胞の Picrotoxin に対する総発火数の変化


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    図4. 培養19日目のラット初代培養皮質細胞の 4-Aminopyridine に対する総発火数の変化


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    図5. 培養19日目のラット初代培養皮質細胞の Strychnine に対する総発火数の変化

結論

ラットプライマリー皮質ニューロンを BrainPhys Primary Neuron Kit を用いて播種及び培養することによって、溶媒である DMSO の濃度依存的なスパイク数に及ぼす影響を排除でき、痙攣誘発薬の用量依存的な応答を明瞭に示すことが可能となった。

参考文献

  1. Odawara, A., Saitoh, Y., Alhebshi, A.H., Gotoh, M. and Suzuki, I. Long-term electrophysiological activity and pharmacological response in human induced pluripotent stem cell derived neuron and astrocyte co-culture. Biochem Biophys Res Commun. 24; 443 (4): 1176-81, 2014.
  2. Matsuda, N., Odawara, A., Katoh, H., Okuyama, N., Yokoi, R. and Suzuki, I. Detection of synchronized burst firing in cultured human induced pluripotent stem cell-derived neurons using a 4-step method. Biochem. Biophys. Res. Commun. 497 (2): 612-18, 2018.
  3. Bardy, C., Hurk, M.v.d., Eames, T., Marchand, C., Hernandez, R.V., Kellogg, M., Gorris, M., Galet, B., Palomares, V., Brown, J., Bang, A.G., Mertens, J., Böhnke, L., Boyer, L., Simon, S. and Gage, F.H., Neuronal medium that supports basic synaptic functions and activity of human neurons in vitro. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 112 (20): E2725-34, 2015.

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神経生理学用 無血清培地 「BrainPhys」

商品コード 商品名 梱包単位
ST-05794 BrainPhys Primary Neuron 1 kit

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